牛深ハイヤ節

牛深ハイヤ節

牛深ハイヤ節は、熊本県天草市牛深に江戸時代から伝わる民謡であり、今日までその賑やかな旋律を響かせています。この土地独特の文化を色濃く反映したこの民謡は、地元の人々だけでなく、訪れる人々をも魅了し続けています。

由来と歴史

作曲者は不詳とされていますが、牛深ハイヤ節は、1992年12月2日に牛深市（現在の天草市）の無形民俗文化財に指定されました。牛深港が天然の良港として古くから栄え、大阪と鹿児島を結ぶ海運船の風待ち港として利用されたことが、この民謡が生まれた背景にあります。

当時の船乗りたちは、風待ちの間の退屈を紛らわせるために、酒を酌み交わし、歌を歌い、踊りを楽しんでいました。その中で、熊本を中心に唄われていた「二上がり甚句」と、奄美から伝わった「六調」という南国特有のリズムが融合し、独特の節回しを持つ「牛深ハイヤ節」が誕生したと言われています。

「ハイヤ」という名前の由来には、九州で南風を「ハエの風」と呼んでいたことが関係しています。「ハエ」が「ハエヤ」に変わり、さらに「ハイヤ」へと訛っていったという説が有力です。北を山に、三方を海に囲まれた牛深では、南風が吹くと雨が降りやすく、海が荒れて船が出航できなくなることがありました。そのため、風待ちの酒宴の席でハイヤ節がよく唄われたのです。

江戸時代には、帆船の舵取りが一晩中歌うことが義務付けられており、船頭たちにとって、荒天候の際の酒盛りは新しい歌を仕入れる絶好の機会でした。風待ちやシケ待ちで牛深に寄港した船乗りたちは、陽気なハイヤ節を肴に酒宴を開き、その思い出を「牛深三度行きゃ三度裸、鍋釜売っても酒盛りゃしてこい」と歌い、次の港へと伝えていきました。こうして、牛深ハイヤ節は全国各地40ヶ所以上に広がり、各地の民謡に影響を与えたことから、ハイヤ系民謡のルーツとされています。

踊り

ハイヤの踊りは、船乗りたちの酒盛り踊りがルーツであるため、中腰で重心が低く、網を投げる動作や櫓を漕ぐ動作が特徴的です。これらの動きは、船乗りたちの生活や労働を反映しており、踊りを通して当時の様子を垣間見ることができます。

牛深では、毎年「牛深ハイヤ祭り」が開催され、ハイヤ総踊りが行われます。この祭りは、地元の人々だけでなく、観光客も巻き込み、大きな賑わいを見せます。

歌詞

牛深ハイヤ節は12番まであり、その歌詞は、当時の船乗りたちの生活や感情、牛深の自然や風物を豊かに表現しています。以下は、一番の歌詞です。

ハイヤエー　ハイヤ
ハイヤで今朝出した船はエー
何処の港にサーマ入れたやらエー
エーッサ
牛深三度行きゃ　三度裸
鍋釜売っても　酒盛りゃして来い
戻りゃ本渡瀬戸徒歩渡り
（アヨイサーヨイサー）　ヨイサーヨイサー
（サッサヨイヨイ）　サッサヨイヨイ

牛深ハイヤ節は、単なる民謡としてだけでなく、牛深の歴史や文化を伝える貴重な文化遺産です。その価値は、時代を超えて受け継がれ、これからも多くの人々に愛され続けるでしょう。

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