物権変動

物権変動とは

物権変動とは、物権の発生・変更・消滅をまとめて指す言葉です。物権の主体から見ると、物権の得喪（取得と喪失）や内容の変更を意味します。

物権変動の原因

物権変動の主な原因は、法律行為と相続です。その他にも、時効、無主物先占、遺失物拾得、埋蔵物発見、添付、混同、放棄、公用徴収、没収などが挙げられます。

物権の発生

物権の発生には、以下の種類があります。

絶対的発生：家屋の新築など、全く新しい物権が生じる場合
相対的発生：既存の物に関する物権が生じる場合で、原始取得と承継取得があります。
原始取得：時効取得、即時取得、無主物先占、遺失物拾得、添付（付合、混和、加工）など、元の権利者の権利に基づかずに新たに権利を取得する場合
承継取得：包括承継（相続など）と特定承継（売買など）、元の権利者の権利を承継して権利を取得する場合

物権の変更

物権の内容や作用が変更されることもあります。

内容の変更：地上権の存続期間の変更など
作用の変更：共有物の分割禁止など

物権の消滅

物権が消滅する場合もあります。

絶対的消滅：目的物の滅失や動産所有権の放棄など、物権そのものが消滅する場合
相対的消滅：他の者にとって相対的発生を意味する場合（例：ある物権が他の人に譲渡されることで、元の所有者の物権は消滅する）

物権は原則として、単独の意思表示で放棄できます。ただし、物権の放棄によって物権上の権利者が損害を受ける場合は、放棄は認められません。

公示の原則と公信の原則

公示の原則

公示の原則とは、物権変動を外部から認識できるように、対抗要件を備える必要があるという原則です。物権には排他性があり、物権変動は第三者の権利関係に大きな影響を与えるため、第三者に対抗するためには対抗要件を備える必要があります。

公信の原則

公信の原則とは、対抗要件を備えた物権変動の外観が存在し、それを第三者が信頼した場合、たとえ実体的な物権変動が存在しなくても、その信頼を保護すべきという原則です。日本では、動産物権変動については即時取得制度によって公信の原則が採用されていますが、不動産物権変動については、不動産登記に公信力が認められていません。そのため、民法第94条2項の類推適用（権利外観法理）によって取引の安全を図っています。

契約による物権変動に関する立法例

形式主義と意思主義

物権変動の要件に関して、形式主義と意思主義という考え方があります。

形式主義：物権変動は、原因となる契約とは別に、物権的合意と登記によって生じるとする考え方（ドイツ法など）。
意思主義：物権変動は、原因となる契約と同時に発生し、特別な形式を必要としないとする考え方（フランス法など）。

成立要件主義と対抗要件主義

登記が持つ意味について、成立要件主義と対抗要件主義という区別があります。

成立要件主義：登記は、当事者間でも物権変動を成立させる要件であるとする考え方（ドイツ法など）。
対抗要件主義：登記は、第三者に対して物権変動を主張するための要件であるとする考え方（フランス法など）。

物権行為の独自性

物権行為の独自性とは、債権行為（原因となる契約）と物権移転行為を分離するかどうかの問題です。

物権行為の独自性を肯定する立場：原因となる契約だけでは債権的な義務が生じるだけで、物権変動のためには別途の法律行為が必要とする考え方（ドイツ法など）。
物権行為の独自性を否定する立場：原因となる契約によって債権的な義務が生じるとともに、物権変動も生じるとする考え方（フランス法など）。

物権行為の無因性

物権行為の無因性とは、原因となる契約の瑕疵が物権変動に影響を与えるかどうかの問題です。

無因主義：原因となる契約が無効になっても、物権変動は影響を受けないとする考え方（ドイツ法など）。
有因主義：原因となる契約が無効になった場合、物権変動も効力を失うとする考え方（スイス法など）。

日本法における契約による物権変動

意思主義の採用

日本の民法は意思主義を採用しており、当事者の意思表示のみで物権変動が生じます（民法176条）。ただし、第三者に対抗するためには、登記または引渡しが必要です（民法177条、178条）。

不動産物権変動の対抗要件

不動産に関する物権変動の対抗要件は、不動産登記です（民法177条）。

動産物権変動の対抗要件

動産に関する物権変動の対抗要件は、引渡しです（民法178条）。ただし、一定の動産物権変動については、動産譲渡登記が認められています。

慣習法上の対抗要件

立木や未分離果実などについては、慣習法上、「明認方法」と呼ばれる対抗要件が認められています。

物権行為の独自性に関する論点

日本の民法では、物権行為の独自性は否定されています。つまり、債権的な意思表示によって物権変動も生じると解釈されています。

物権行為の無因性に関する論点

日本の通説では、物権行為の無因性は否定されています。つまり、原因となる契約が無効になった場合、物権変動も効力を失うと解釈されています。

物権変動の時期

日本の民法では、物権変動は当事者間の意思表示と同時に生じると解釈されています。ただし、不動産売買などでは、代金の支払いまたは引渡し・登記のいずれかが行われた時点、あるいは所有権が段階的に移転するとする学説もあります。

契約時説（判例）：特約のない限り、売買契約時に所有権が移転する。