特許を受ける権利

特許を受ける権利：発明の保護と特許権取得への道筋

特許を受ける権利とは、発明を完成させた発明者に対し、国家に特許権の付与を請求できる権利です。これは、特許権の付与を請求する公的な権利と、発明の支配権といった私的な権利の両方の性質を併せ持ちます。実用新案や意匠登録にも同様の権利が認められています。本記事では、日本の特許法に基づく特許を受ける権利について解説します。

制度の趣旨

特許法の目的は、発明を奨励し、産業の発展を促すことです。そのため、発明者は独占的に発明を実施できる特許権を得ることができます。しかし、特許権付与には、新規性や進歩性などの審査が必要で、発明完成から特許権取得までには時間がかかります。そこで、この間の発明者や出願人の利益を守るため、「特許を受ける権利」が設けられています。

権利の発生と消滅

権利の発生

特許を受ける権利は、産業利用可能な発明が完成した時点で発生します。発明が当業者にとって実施可能なレベルで具体化されていれば、特別な手続きは不要です。

権利の消滅

特許を受ける権利は、以下の理由で消滅します。

1. 特許権の設定登録: 特許権の取得により、特許を受ける権利は消滅します。
2. 権利能力の喪失: 特許法25条に基づき権利能力を失った場合、この権利も消滅します。
3. 特許出願の放棄: 以前は出願放棄で消滅しましたが、現在の法改正により、放棄後の再出願が可能です。

権利の主体と客体

権利の主体

原始的帰属

特許を受ける権利は、発明を完成させた発明者に原始的に帰属します。共同発明の場合は、発明者全員が共有します。発明者は自然人で、法人は発明者にはなれません。従業員の職務発明の場合でも、発明者は従業員であり、権利は従業員に帰属します。

外国人

外国人は、日本国内に住所または居所がない場合、以下のいずれかの条件を満たせば、特許を受ける権利を享有できます。

1. その者の国が日本国民に同等の権利を認めている場合。
2. その者の国が日本国が権利を認める場合に、日本国民に同等の権利を認める場合。
3. 条約で別段の定めがある場合。

パリ条約同盟国の国民は、内国民待遇の原則により、権利を享有できます。

権利の承継

特許を受ける権利は譲渡可能です。発明者以外が特許出願することもできます。法人は、発明者から権利を譲り受けることで、権利の享有者となります。職務発明の場合、法人は従業員に相当の対価を支払う必要があります。

権利の客体

特許出願前には、発明者が完成させた産業上利用可能な発明が客体となります。出願後は、特許請求の範囲に記載された発明が客体となります。

権利の変動

主体の変動

特許を受ける権利は譲渡できます。出願前の譲渡は契約のみで有効ですが、承継人が出願しなければ第三者に対抗できません。出願後の譲渡は、相続などを除き、特許庁長官への届け出が必要です。質権や抵当権の目的にはできませんが、譲渡担保の目的にはできると解釈されます。

客体の変動

特許出願後は、特許請求の範囲の補正により客体が変動します。

特許を受ける権利を有する者の利益

補償金請求権

特許出願が公開されると、発明を実施している者に対し、実施料相当額の補償金を請求できます。ただし、特許権の設定登録後に行使できます。

特許権の付与

特許を受ける権利者は、特許出願を行い、新規性、進歩性などの要件を満たせば、特許権が付与されます。

特許を受ける権利を有しない者による特許出願

特許を受ける権利がない者の出願は「冒認出願」と呼ばれ、拒絶されます。誤って特許権が付与された場合は、利害関係者による特許無効審判請求で無効になります。権利を有する者は、冒認出願で取得された特許権の移転を請求できます。

他法域における同様の権利

実用新案法や意匠法にも同様の権利が認められています。しかし、商標法や著作権法には、同様の権利は認められていません。商標法は創作物を保護するものではなく、著作権法は創作と同時に独占排他権が発生するためです。

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