犯人のいない殺人の夜

本書の概要

『犯人のいない殺人の夜』は、著名な作家・東野圭吾による短編推理集であり、光文社から発表されました。この本は、1985年から1988年にかけて発表された彼の初期作品の中から7つの短編を収めています。1990年に単行本として初版が刊行され、1994年には文庫版も発売されました。表題作である「犯人のいない殺人の夜」は、殺人が起きた夜とその後の時間を行き来する独特の構成を特徴としており、読者に緊張感を与えます。

著者の東野圭吾は、この短編集の執筆を通じて短編小説の形を模索していました。彼は当時、短編の書き方についての知識が乏しく、まだ読んだことがなかったアンソロジーを手に取って、物語の構築法を学びました。また、彼の作品に子供が多く描かれているのは、自身の不安からであり、大人の複雑な犯罪を書くことには自信がなかったといいます。それでも、この作品群には彼自身が試行錯誤しながら生み出した思い出がたくさん詰まっているとしています。

本書の収録作のいくつかは、2012年にフジテレビ系列で放送されたオムニバス形式の連続ドラマ『東野圭吾ミステリーズ』のエピソードとしても描かれました。

各章の概要

小さな故意の物語

最初の物語は、男子生徒の不審な死を巡る探求です。友人である中岡良は、彼の死が単なる自殺ではないと感じ、真実を探る旅に出ます。物語の進行と共に、彼は死の背後に潜む「故意」を発見していきます。

闇の中の二人

この物語は、中学教師・永井弘美と生徒萩原信二が中心です。信二の弟が絞殺された事件を背景に、信二との関係を通じて教師としての苦悩が描かれます。不穏な秘密が明らかになることで、物語はクライマックスを迎えます。

踊り子

中学生の孝志の恋心と彼女を追いかける姿が描かれ、彼女に近づく過程で直面する現実が描写されます。この作品では、子供たちの純粋な感情と、それを取り巻く大人の世界が交錯します。

エンドレス・ナイト

物語は、東京在住の田村厚子が夫の死の知らせを受け取るところから始まります。彼女の感情的な葛藤と大阪での新たな生活が描かれ、事件の背後に隠された真実が明らかになります。

白い凶器

A食品株式会社で発生した事件を追いかける刑事たちが、それぞれの思いを抱えながら捜査する様子が描かれます。職場という閉鎖的な空間に潜む人間関係の複雑さが見事に表現されています。

さよならコーチ

アーチェリー部の選手が自ら命を絶つという衝撃的な事件を受けて、コーチが直面する葛藤が中心に描かれます。コーチ自身もまた、選手の死に影響を受け、思い悩む姿が印象に残ります。

犯人のいない殺人の夜

最後の物語は、著名な建築家の家で起こる殺人事件です。家庭教師である拓也は、事件を隠蔽しようとする岸田から依頼され、彼とともに事件をもみ消そうとしますが、思わぬ事態が展開していきます。この物語は、意外性に満ちた結末が特徴であり、推理小説としての魅力が詰まっています。

結論

『犯人のいない殺人の夜』は、東野圭吾の若き感性が詰まった短編集であり、様々なテーマとキャラクターが描かれています。そのミステリアスな要素が詰まった作品群は、推理小説ファンだけでなく、多くの読者を魅了することでしょう。

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