犯罪の回送
松本清張による長編
推理小説『犯罪の回送』は、
1962年から63年にかけて連載された「対曲線」を基に、著者の晩年に全面的に改稿され、
1992年に刊行されました。作品は、
北海道の港町で起こる市長の失踪事件を中心に展開され、地方都市の闇を巧みに描いています。
あらすじ
物語の舞台は、
北海道北浦市。この市では、春田英雄市長が港湾拡張計画を推進しており、地元の議員たちもその実現に向けて活動しています。しかし、計画が進む中、春田市長は東京への出張の際に行方不明になってしまいます。議員たちの上京後、春田市長の死体が発見され、事態は急展開を見せます。
警視庁の田代警部は、早川準二議員が市長と対立していたことに着目し、その行動を追うことになります。早川議員は、市長の失踪后、次々と宿を変更し、ついには溺死体として発見されます。彼の行動は、春田市長の殺害と関連しているのではないかとの疑惑を生むが、早川議員の自殺説が有力視されます。
しかし、田代警部は納得がいかず、独自の捜査を開始します。捜査を通じて、真犯人の巧妙なトリックや、絡み合った人間関係が浮かび上がり、事件の真相に迫る中で、田代は自らの信念と向き合うことになります。
主な登場人物
- - 田代警部: 警視庁捜査一課の警部。非キャリア組であり、地道な捜査を重視。
- - 春田英雄: 北浦市の市長で、港湾拡張計画を推進するが、失踪。
- - 有島安太郎: 市長の秘書。市長の上京に同行。
- - 早川準二: 港湾拡張計画に反対する革新系議員。市長と対立。
- - 遠山庄三: 市長派の代表的存在で、工事に関わる重要な役割を担っている。
本作は、
2018年に
テレビドラマとしてリメイクされました。このドラマでは、事件設定を現代に置き換え、登場人物のキャラクターや関係性を一部変更して描かれました。特に、秘書の有島は原作では男性ですが、ドラマでは女性として描かれています。また、ドラマでは田代警部の視点から物語が進行し、独自のアプローチでトリックが解明されていきます。
評価と影響
評論家は、この作品が
北海道の現状を的確に捉えていると指摘し、都市一極集中がもたらす地方の衰退を予見したものとして評価しています。
松本清張の鋭い観察眼と社会への洞察が、作品の随所に感じられるため、単なる
推理小説に留まらず、深いメッセージを持つ作品といえるでしょう。
『犯罪の回送』は、ハードボイルドな推理と人間ドラマが織りなす、
松本清張の代表的な作品の一つです。