狂犬病ウイルス

狂犬病ウイルスについて

狂犬病ウイルス（Rabies lyssavirus）は、ラブドウイルス科に属し、狂犬病の原因となるウイルスです。このウイルスは人間や犬を含むすべての哺乳類に感染する可能性があります。ウイルスの増殖は主に感染した細胞の細胞質で行われ、乾燥や熱、アルコールで効果的に不活化される特性があります。

構造

狂犬病ウイルスはマイナス鎖RNAウイルスで、独特な弾丸形の構造をしています。ウイルスの直径は約75nm、長さ180nmで、先端部分は丸みを帯びています。ウイルスの内部には、遺伝子が含まれたリポ核タンパク質が存在し、5つの主要な遺伝子（L、G、N、P、M）から構成されています。これらの遺伝情報は、約1万1615から1万1966塩基対の長さを持ち、狂犬病ウイルスは約1500年間という短い期間で進化してきたと言われています。

分布

狂犬病ウイルスはほぼ全世界に広がっています。主な宿主となる動物には犬、コウモリ、キツネ、マングースなどが含まれ、これらの動物から人間への感染が報告されています。日本では1950年に狂犬病予防法が施行され、約7年で国内からウイルスを撲滅することに成功しました。現在では、旅行中に犬に噛まれて感染し帰国後に発症するケースがあるものの、国内での感染は確認されていません。世界的には毎年約5万5000人が狂犬病によって亡くなっており、その多数がアジアでの感染によるものです。

指定された感染が報告されていない国は、日本が指定した国々（オーストラリア、ニュージーランド、アイスランド等）があり、その他の地域では感染例が見られるか報告がありません。

ウイルス株

狂犬病ウイルスは7種類の遺伝子型に分類され、日本国内にもいくつかの研究用株（西ヶ原株、小松川株など）が保管されています。これらの株は、それぞれ異なる地域から分離されたものであり、特に小松川株は中国やロシアに由来していると考えられています。

感染のメカニズム

感染は主に唾液を介して起こり、傷口から体内に侵入します。感染が始まると、ウイルスは神経細胞の細胞質に入って増殖し、エンドソームを通じて細胞内での安定した環境を利用します。この過程でネグリ小体と呼ばれる特有の構造が形成され、最終的に脳に到達することで狂犬病が発症します。潜伏期間は通常1ヶ月から3ヶ月ですが、稀に1年から2年に達することもあります。

狂犬病が発症した場合、ほとんどのケースで致命的な結果を招くため、早急なワクチン接種が重要です。

ワクチンと予防

日本では、狂犬病ウイルスは4類感染症に指定されています。イヌやウシに対する狂犬病予防法が適用され、咬傷事故を起こした動物には観察が義務付けられています。これは、咬傷から2週間以内に狂犬病を発症しない場合、感染の可能性が薄いとされるためです。

狂犬病ワクチンは1885年に開発され、現在では様々な種類のワクチンが存在します。ワクチンはウイルスを持つ動物への予防接種や、人間の咬傷後の発症防止のために使用されます。

トランスシナプス標識

狂犬病ウイルスは神経細胞間のシナプス接続を可視化するための研究手法として注目されています。この技術では、ウイルスの遡上性を利用し、特定の神経細胞とその接続先を明らかにすることが可能です。この手法は神経回路研究における革新技術として、今後の発展が期待されています。

狂犬病ウイルスは致死性の感染症であるため、知識を深めることが重要です。適切な予防接種と感染防止策が人々の健康を守るためのカギとなります。

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