猪熊純

猪熊 純

猪熊 純（いのくま じゅん）は、1977年生まれの日本の建築家です。成瀬・猪熊建築設計事務所を成瀬友梨と共に設立し、その活動を通じて、現代社会における多様な空間のあり方を追求しています。

経歴

神奈川県に生まれた猪熊氏は、東京大学工学部建築学科で建築を学び、2002年に卒業しました。その後、同大学大学院工学系研究科建築学専攻に進み、2004年に修士課程を修了しています。大学院修了後は、著名な建築家である千葉学氏が主宰する千葉学建築計画事務所での実務経験を積みました。2007年には、大学時代の知己である成瀬友梨氏と共同で成瀬・猪熊建築設計事務所を設立し、その活動を本格化させました。

事務所設立と並行して、猪熊氏は教育・研究活動にも力を入れています。2008年からは首都大学東京（後の東京都立大学）で助教を務め、後進の指導にあたりました。2021年には芝浦工業大学へ移り、准教授として教鞭を執り、2024年からは同大学の教授として、教育・研究活動の中心的役割を担っています。また、明治大学、神奈川大学、東北大学、愛知県立芸術大学など、複数の大学で非常勤講師としても教壇に立っています。2018年から2021年には、デザイン界の権威ある賞の一つであるグッドデザイン賞の審査委員も務めました。

設計活動：「シェア」を核に

成瀬・猪熊建築設計事務所の設計活動において、「シェア」は重要なキーワードの一つです。単なる空間の共有にとどまらず、人々の活動や時間、体験を分かち合うことを促すような、新しい関係性を生み出す空間づくりを目指しています。イノベーションセンター、シェアハウス、共同住宅、店舗、ホテル、オフィス、公共施設など、多岐にわたるプロジェクトを手がけており、それぞれの場で「シェア」の概念を柔軟に展開しています。

代表的なプロジェクトとしては、共同作業や交流を促進するイノベーションセンター KOIL 柏の葉オープンイノベーションラボ (2014年) や KOIL ガレージ (2015年) 、多様な居住者が集うシェアハウス LT城西 (2013年) や Garden Terrace 鷹の台 (2015年) 、社員寮をリノベーションした リエットガーデン三鷹 (2019年) や Social Base HIGASHINAKANO (2023年) が挙げられます。また、カプセルホテル 9h nine hours (中洲川端駅・なんば駅、2019年) や、東日本大震災の復興支援として建設された仮設・本設のコミュニティカフェ りくカフェ (2012年、2014年) なども、多様な人々が一時的に集まり、空間や体験を共有する場のデザインとして注目されています。

近年では、木材の利用を特徴とする店舗 meet tree (中津川 2021年, 銀座 2023年) や、韓国・ソウル駅のリノベーションプロジェクト Dance of light (2019年) など、素材や場所の特性を活かしたプロジェクトも高く評価されています。その他にも、戸建住宅、マンション、ホテル、オフィス、公共施設など、幅広い用途の建築・内装設計を数多く手がけています。

受賞・展示活動

猪熊氏の設計活動は国内外で高く評価され、数々の賞を受賞しています。学生時代から建築設計競技で受賞歴を重ね、事務所設立後もその実績は多岐にわたります。主な受賞には、2016年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展での特別表彰（日本館展示の一員として）、複数年にわたるグッドデザイン賞（リエットガーデン三鷹、Dance of light、KOIL、りくカフェ など）、JCDデザインアワード（西武池袋本店パブリックスペース、KOIL）、ウッドデザイン賞（meet tree 銀座・中津川）、日本空間デザイン賞（9h nine hours、meet tree 銀座）、日本建築学会作品選集新人賞（LT城西）、AACA賞（お宿 Onn 中津川）、大韓民国公共デザイン大賞（Dance of light）などがあります。

また、国内外の様々な展覧会やインスタレーションにも参加し、作品を発表しています。ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展（2016年）の日本館展示、森美術館での「建築の日本展」（2018年）、瀬戸内国際芸術祭（2016年）、HOUSE VISION（2013年）、そして各地での個展やグループ展など、精力的に活動を展開しています。

著書

「シェア」というテーマに関する知見は、編著書としても発表されています。主な著書に、『シェアをデザインする』（学芸出版社）、『シェア空間の設計手法』（学芸出版社）などがあり、空間デザインにおける「シェア」の可能性について深く考察しています。

猪熊純氏の活動は、建築設計にとどまらず、教育、研究、そしてデザインの普及・啓発に及び、現代社会のニーズに応える新しい空間のあり方を提案し続けています。

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