猫奥

猫奥

『猫奥』は、山村東による日本の漫画作品で、『モーニング』（講談社）にて2020年から連載されています。幕末の江戸城大奥を舞台に、猫に愛情を注ぐ人々の様子をコミカルに描いた作品です。猫が言葉を発することはありませんが、周囲の人間たちが猫に振り回されたり、猫の可愛さについて語り合ったりする様子が、読者の笑いを誘います。

ストーリー

物語の中心となるのは、江戸城大奥に仕える御年寄の滝山です。大奥の女中の多くが猫を飼っているにもかかわらず、滝山は猫を飼っていません。そのため、周囲からは猫嫌いと思われていますが、実は大の猫好き。猫を可愛がりたい気持ちと、御年寄としての威厳を保とうとする気持ちの間で、日々葛藤しています。

登場人物

作中には、主人公の滝山をはじめ、実在の人物が多く登場します。

滝山: 主人公。役職は御年寄。貧しい武家の出身で、目つきが険しく真面目な性格のため、周囲に誤解されることが多い。猫好きだが、飼う機会を逃し続けている。他所の部屋からやってくる猫たちを、ひそかに可愛がっている。
姉小路: 役職は上臈御年寄。政治的手腕に長けている。酒好きで、夜通し酒宴を催すこともしばしば。「吉野」という名の猫を飼っている。
花町: 役職は御年寄。滝山の同僚。処世術に長けており、猫を溺愛する様子が滝山をいら立たせることもある。「こはる」という名の猫を飼っている。
照代: 役職は御次。町方育ちで、舞踊の名手。滝山が猫好きであることを見抜き、よき相談相手となっている。
ませ、仲野: 滝山の部屋子。滝山の猫好きを知らない。
美登: 姉小路の部屋に務める娘。姉小路の猫「吉野」の世話をする。滝山と文通をするが、相手が滝山とは気づいていない。
とし: 滝山の部屋子(小僧)。猫が苦手。
大岡孫右衛門: 滝山の実弟。役職は小納戸役。彼も猫好きで、家で猫を飼っているが、猫たちは妻になついている。
歌川国芳: 猫好きで有名な浮世絵師。猫を凝視する滝山を猫好きだと見抜く。
鮫島: 薩摩藩士。強面だが、実は無類の猫好き。江戸屋敷では自由に猫を飼えないため、市中の猫をかわいがっている。

登場する猫

吉野: 姉小路の飼い猫。白と黒の毛並みが特徴。滝山のお気に入り。
こはる: 花町の飼い猫。とても人懐こい。
千代丸: 将軍の側室、お筆の方の飼い猫。京生まれの黒猫。どんくさい。
紫: 吉野の兄弟猫の子猫。吉野と毛並みが似ている。
団十郎: 毛並みが市川團十郎の三枡紋に似ている。

制作背景

作者の山村は、担当編集者から「ぜいたくな暮らしをしている現代の猫が、江戸時代にタイムスリップする」というアイデアをもとに、本作を制作しました。「大奥では上司の子猫をもらい受けて出世の糸口にしていた」という話から、「大奥の猫」というテーマにたどり着いたといいます。主人公の滝山については、「大奥といえば滝山」というイメージから、猫好きを隠しているキャラクターが誕生しました。

猫の吉野にはモデルはいませんが、山村の「好きなイメージ」で描かれています。作中の「猫に翻弄される」場面は、「事実をもとにして創作」されており、例えば「篤姫は実際に大奥で猫を飼っていた」というエピソードから、「大奥では猫の餌に高級魚を与えている」という設定が生まれました。

書誌情報

山村東『猫奥』講談社〈ワイドKC〉、既刊10巻（2025年1月22日現在）

関連項目

三田村鳶魚：作者が江戸風俗の典拠としている。

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