猿投窯

猿投窯：日本のやきものの歴史を語る古代の窯群

古代日本のやきもの文化を支えた、1000基以上の窯跡

愛知県名古屋市東部から豊田市西部、瀬戸市南部、大府市、刈谷市北部にかけて、約20km四方に広がる猿投窯は、1000基を超える古代の窯跡群の総称です。日本三大古窯の一つに数えられ、古墳時代後期から鎌倉時代初期（約700年間）にわたって、数々のやきものが生産された重要な遺跡です。別名、猿投山窯、猿投山西南麓窯跡群とも呼ばれています。

複雑な歴史と三つの時代

猿投窯の歴史は、大きく3つの時代に分けられます。

古墳後期～奈良中期（須恵器の時代）： 最古の時代で、朝鮮半島から伝わった須恵器の技術を基盤にやきもの生産が始まりました。断夫山古墳から出土した須恵質の埴輪が、この時代の窯で焼かれたことが分かっています。
奈良中期～平安中期（灰釉陶器の時代）： 須恵器に加え、灰釉陶器の生産が盛んになります。この時代の技術革新は、後の日本のやきもの文化に大きな影響を与えました。
平安中期～鎌倉初期（山茶碗の時代）： 山茶碗と呼ばれるやきものが生産の中心となります。時代の変化とともに、やきものの様式や生産技術も進化を遂げていきました。

それぞれの時代において、社会情勢や文化的な背景が複雑に絡み合い、窯業活動が展開したと考えられています。

発見と命名：愛知用水の建設が契機に

猿投窯の存在が広く知られるようになったのは、1957年（昭和32年）に始まった愛知用水建設がきっかけでした。建設工事によって多くの窯跡が発見され、古陶磁研究家であった本多静雄氏らの尽力によって、大規模な発掘調査が行われました。

調査の中心となった名古屋大学の研究者たちは、黒笹の窯跡を視察した際に、窯跡群に名称をつける必要性を感じました。猿投山を望む立地から「猿投山西南麓古窯址群」と名付けられ、後に略称として「猿投古窯」と呼ばれるようになりました。しかし、後の調査で、窯跡の分布が猿投山麓周辺よりも広範囲に及ぶことが判明し、名称の正確性に疑問が残る部分もあります。

技術革新と生産品

猿投窯の大きな特徴は、地元の原料を用いながら、朝鮮半島から伝わった須恵器の技術を高度に発展させ、高品質なやきものを生産していた点です。特に、青磁を目指した試行錯誤の中で生まれた「猿投白瓷（さなげしらし）」は、日本最古の高火度施釉陶器として注目されています。

生産品目は、祭器、仏具、香炉、硯、飲食器など、主に高級品に限定され、平城京や平安京などの宮廷や寺社、有力な豪族などに供給されていたと考えられています。そのため、猿投窯は官窯、もしくは官の関与が強い官窯的な性格を持っていたという説が有力です。

現代への遺産

猿投窯は、古代日本のやきもの文化を深く理解する上で欠かせない重要な遺跡です。その発見と研究は、日本の陶磁器史に新たな知見をもたらし、現代に至るまで日本のやきもの文化に大きな影響を与え続けています。現在も発掘調査や研究が続けられ、新たな発見が期待されています。

参考文献

本多静雄『愛陶百寿』里文出版
* 大石訓義『猿投古窯 - 日本陶磁の源流』雄山閣

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