玉国光男

玉国 光男（たまくに みつお）

玉国光男氏は、1948年4月3日に山口県に生まれた。

高校時代、山口県立宇部商業高等学校の選手として野球に打ち込み、主将、二塁手としてチームを牽引。1966年の第38回選抜高等学校野球大会に出場し、エース三原義昭氏（後の松下電器）と共に快進撃を見せ、準決勝まで駒を進めた。準決勝では強豪・中京商業（現・中京大中京）と対戦し、延長15回、4時間35分に及ぶ大会史上最長の熱戦となったが、惜しくもサヨナラ負けを喫した。この中京商はその年の春夏連覇を達成している。高校卒業後、玉国氏は第一次ドラフト会議で西鉄ライオンズから9位指名を受けたが、プロ入りはせず、社会人野球の鐘淵化学野球部でプレー。その後、郷里の協和発酵宇部工場に勤務した。

1975年秋、母校である宇部商業高校野球部の監督に就任。以後、長きにわたりチームを率い、甲子園の舞台で数々の記憶に残る試合を繰り広げたことで知られる。その指導のもと、宇部商業は春の選抜大会に5回出場し5勝5敗、夏の全国高等学校野球選手権大会には12回出場し19勝11敗の成績を残した。甲子園通算では出場16回で24勝16敗を記録している。最高成績は1985年夏の準優勝と、2005年夏のベスト4であり、さらにベスト8進出も3度経験している（1983年夏、1988年春、1988年夏）。

玉国監督率いる宇部商業は、特に劣勢から巻き返す粘り強い戦いぶりから「ミラクル宇部商」の異名で呼ばれた。その象徴とも言える劇的な試合のいくつかは、高校野球ファンの中で今も語り継がれている。

監督の甲子園初勝利となった1983年夏の2回戦、対帝京戦では、9回裏に1点差を追う展開から、浜口大作選手が2打席連続となる逆転サヨナラ2ランを放ち、勝利を掴んだ。

1985年夏は宇部商業にとって特別な夏となった。準々決勝の鹿児島商工戦では、先発投手が序盤に失点するも、控えの古谷投手が好リリーフで相手打線を封じ込め、打線が奮起して逆転勝利。続く準決勝の東海大甲府戦も、リードを許す展開から藤井進選手の同点3ラン（この大会で4本塁打を記録し大会新）、そして9回裏一死満塁から桂選手のサヨナラ打で決勝進出を決めた。決勝では、「KKコンビ」として注目を集めていた桑田真澄、清原和博両選手を擁するPL学園と激突。清原選手に2本塁打（この大会通算5本塁打で大会新記録）を浴び、惜しくも敗れたが、この死闘は高校野球史に残る名勝負として記憶されている。

1988年春の選抜では、2回戦の堀越戦で9回二死無走者から同点に追いつき、延長戦で勝利。続く中京戦では、相手投手の完全試合目前の9回一死から初めて出塁し、坂本雄選手の逆転2ランで試合をひっくり返す驚異的な粘りを見せた。しかし、翌日の準々決勝では最終回に逆転サヨナラ負けを喫するという、喜びから一転して悲劇を味わった。

同年夏の甲子園、3回戦の東海大甲府戦でも、玉国監督は采配の妙を見せた。1点ビハインドの9回表、一死二、三塁のチャンスで1年生の代打・宮内洋選手（後にプロ入り）を起用。宮内選手は期待に応え、バックスクリーンへの逆転3ランを放った。これは甲子園の歴史上、9回にビハインドの展開から飛び出した唯一の代打逆転本塁打として記録されている。

1990年夏2回戦の渋谷戦では、延長10回二死満塁から松本謙吾選手が決勝グランドスラムを放ち、激戦に終止符を打った。

1995年春1回戦の桐蔭学園戦では、初回に6点差をつけられながらも、諦めずに反撃を重ねて逆転勝利を収め、宇部商の粘り強さを改めて全国に示した。

1998年夏には、甲子園ならではの珍しい出来事も経験した。1回戦の日大東北戦では、レフトの選手がフェンスの下の隙間に腕が挟まり、ボールを処理できない間に走者が生還するという一幕があった。続く2回戦の豊田大谷戦では、延長15回無死満塁という緊迫した場面で、2年生エース藤田修平投手にサヨナラボークが宣告され、あまりにも劇的な形で敗退した。この試合は審判にとっても忘れられない一戦となった。

2005年夏の準々決勝、対日大三戦でも9回に逆転勝ちを収めた。この試合での応援スタンドの熱狂ぶり、特に勝利が決まった瞬間の応援リーダーの表情の変化は、「熱闘甲子園」などで紹介され、話題となった。

玉国監督のチームは、優秀なサウスポー投手を擁することが多かった点も特筆される。甲子園通算24勝のうち、19勝は左腕投手が挙げたものだった。1985年の田上昌徳氏、1988年の木村真樹氏、1990・1991年の金藤本樹氏、1995年の三分一政孝氏、2005年の好永貴雄氏など、多くの左腕エースが宇部商業を支えた。印象的な試合を演じた藤田修平選手も左腕であり、これは左腕投手の能力を引き出す玉国監督の指導力の賜物と言える。

2006年7月31日、玉国監督は長年の指揮官生活に終止符を打つ勇退を発表。後任には、元宇部商業の選手でプロ野球の審判も務めた中富力氏が就任した。現在は総監督として、後進の指導にあたっている。

数々の「ミラクル」と呼ぶにふさわしい劇的な試合を演出し、高校野球ファンに深い印象を残した玉国光男氏は、山口県高校野球界において偉大な足跡を残した名将として、その功績は長く称えられるだろう。

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