玉城康四郎

玉城 康四郎（たまき こうしろう、1915年7月29日 - 1999年1月14日）は、20世紀後半の日本を代表する仏教学者の一人です。東京大学名誉教授として長年にわたり教鞭を執り、仏教思想のみならず、広く世界の宗教や哲学、思想を比較研究する独自の学風を確立しました。

玉城康四郎は、1915年に熊本県熊本市に生まれました。生家は浄土真宗の門徒であり、幼い頃から仏教的な環境に親しんで育ちました。熊本中学校を卒業後、第五高等学校（現在の熊本大学）に進学。この高校時代に、禅や真宗の師に師事し、仏教への関心を深めていきます。1940年には東京帝国大学文学部印度哲学科を卒業し、大学院へ進みました。学問の道を進み始めた矢先の1942年10月、太平洋戦争の戦況激化に伴い召集を受け、一時研究を中断せざるを得なくなりました。終戦後、故郷の熊本に戻り、専門学校で教職に就きましたが、再び学問への情熱を抱き、1951年に再上京して大学院に復帰しました。

研究活動を再開した玉城は、1954年から東洋大学文学部に勤務し、教育者としてのキャリアをスタートさせます。そして1959年、長年の研究成果をまとめた論文「天台実相観における心の捉え方の問題」により、東京大学から文学博士の学位を取得しました。同年、母校である東京大学文学部印度哲学科の助教授に就任し、1964年には教授へと昇任。東大では多くの学生を指導し、研究を進めました。1976年に定年退官後、東京大学名誉教授の称号を得るとともに、東北大学教授に就任。さらに1979年からは日本大学教授を務め、1986年に定年退任するまで、精力的に教育・研究活動を続けました。学術における長年の功績が認められ、1987年春には勲三等瑞宝章を受章しています。

玉城康四郎の研究は、仏教の伝統的な教えに根ざしつつも、極めて幅広い視野を持って展開されました。特に、天台思想における「心」の捉え方に関する詳細な研究は、博士論文として結実しています。また、禅仏教にも深い関心を寄せ、道元禅師の主著『正法眼蔵』や、盤珪禅師の法語・説法に関する著作を著し、その思想を現代に分かりやすく伝えることにも尽力しました。

彼の研究のもう一つの大きな柱は、「比較思想」です。仏教だけでなく、東西の様々な思想や世界各地の宗教を横断的に比較検討することで、それぞれの思想の根底にある普遍的な問いや人間の本質を探求しました。その成果は、『東西思想の根底にあるもの』といった著作にまとめられています。晩年には「悟り」や「解脱」、「生命とは何か」といった根源的なテーマについても深く考察し、その思索の軌跡は数多くの著作として残されています。

主な著作には、以下のようなものが挙げられます。

『心把捉の展開―天台実相観を中心として』
『宗教と人生』
『冥想と経験』
『仏教の根底にあるもの』
『東西思想の根底にあるもの』
『華厳入門』
『正法眼蔵』『現代語訳 正法眼蔵』
『悟りと解脱』

これらの著作を通じて、玉城康四郎は専門的な仏教学の研究成果を学術界に提示する一方、一般の読者にも仏教や思想の本質を分かりやすく伝える努力を続けました。かつてNHKラジオの「ラジオ深夜便・こころの時代」に出演し、「人類の教師たち」（釈迦、イエス・キリスト、ソクラテス、孔子）と題して講演したことも、その開かれた姿勢を示しています。

玉城康四郎の研究は、仏教思想の深遠さを明らかにしつつ、比較思想という新たな視点からその普遍性を問い直すものであり、日本の学術界に多大な貢献をしました。彼の著作や思想は、没後もなお多くの研究者や読者に影響を与え続けています。

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