王子の狐

王子の狐

「王子の狐」は、初代三遊亭圓右によって東京に移植された落語の演目です。元々は上方落語の「高倉狐」という噺で、人を化かすとされる狐が、逆に人間に一杯食わされるという、ユーモラスな展開が特徴です。

あらすじ

物語の舞台は、古くから狐が人を化かすことで知られていた王子稲荷（現在の東京都北区王子）です。

ある男が王子稲荷にお参りした帰り道、一匹の狐が美しい女性に化ける場面に遭遇します。狐はこれから誰かを化かそうと企んでいる様子。そこで男は、逆に狐を化かしてやろうと考えます。男は大胆にも、狐に「お玉ちゃん、俺だよ、熊だ。もしよかったら、あそこの店で食事でもどうだい？」と声をかけます。まるで知り合いであるかのように振る舞う男に対し、狐もまんまと罠にはまり、「あら、熊さん、お久しぶり」と応じます。狐は、男をカモにしようと企んでいるのです。

二人は近くの料理屋「扇屋」に上がり込み、油揚げではなく、天ぷらやお刺身などの豪華な料理を注文します。酒を酌み交わすうちに、狐のお玉ちゃんはすっかり酔いつぶれて眠ってしまいます。そこで男は、土産に卵焼きまで包ませ、「勘定は女が払う」と言い残し、図々しくも狐を置いてさっさと帰ってしまいます。

しばらくして、店の者に起こされたお玉ちゃんは、男が帰ってしまったことを知り、驚愕します。驚きのあまり、耳がピンと立ち、尻尾がニョキッと生えてしまいます。正体を現してしまった狐に、今度は店の者が驚いて狐を追いかけ回し、狐は慌てて逃げ出します。

狐を化かした男は、この出来事を友人に自慢しますが、「それはひどい。狐は執念深いぞ」と脅されて青ざめます。翌日、男は王子まで謝りに行き、狐の巣穴らしき場所で遊んでいる子狐に、「昨日は悪いことをした。お母さんに謝っておいてくれ」と言い、手土産を渡します。

巣穴の中では、母狐が昨日の件で痛い目に遭い、うめき声をあげています。子狐が「今、人間が来て、謝りながらこれを置いていった」と手土産を渡すと、母狐は警戒しながらも中身を開けます。中には美味しそうなぼた餅が入っていました。子狐が「お母さん、美味しそうだよ。食べてもいい？」と尋ねると、母狐は「いけないよ！人間は騙すからね、馬の糞かもしれない！」と答えます。

演者

この噺は、多くの落語家によって演じられてきました。

物故者
八代目春風亭柳枝
十代目金原亭馬生
七代目立川談志

現役
十一代目金原亭馬生

補足

卵焼き: 扇屋は現在、料理屋としての営業はしていませんが、1階で卵焼きを販売しています。

関連項目

日本の文化における狐

外部リンク

幕末・明治期の扇屋 - 右手に扇屋、中央が音無川、左に扇屋庭園。
歌川広重作 江戸高名会亭尽「王子扇屋」 - 江戸東京博物館収蔵

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