王朝時代

王朝時代（おうちょうじだい）

日本の歴史において、「王朝時代」とは、天皇を中心とする朝廷が政治の実権を掌握していた時代を指す歴史区分です。この言葉は、後の武家政権が日本を支配した時代と対比される形で用いられるのが一般的です。

時代区分

「王朝時代」は、その指し示す範囲についていくつかの解釈があります。

広義には、古墳時代、飛鳥時代、奈良時代、そして平安時代までを含む、武家政権が成立する以前の時代全体を指すことが多いです。この期間は、大和朝廷から律令国家を経て、天皇および朝廷が日本の政治・文化の中心的な担い手であった時代として捉えられます。

特に狭義では、平安時代の別称として用いられることが少なくありません。平安時代は、律令体制が徐々に変質しながらも、なお朝廷の権威が強く保たれ、天皇や貴族が政治を主導し、華やかな貴族文化が花開いた時代と位置づけられるため、「王朝」の特色が最も顕著に表れた時代として、この名称が使われることがあります。

名称の由来と武家政権との対比

この名称は、鎌倉時代に武家による政権（鎌倉幕府）が樹立されて以降の時代を「武家時代」と呼ぶのに対し、それ以前の、天皇が治める「王朝」、すなわち朝廷が政治の中心的な権力を持っていたことに由来します。

「王朝時代」という言葉には、天皇を中心とした政権と、その後に続く武家政権との対立構造や、権力の所在の違いを強調する側面があると言えます。しかし、武家が実権を握った鎌倉時代以降も、朝廷は完全に権力を失ったわけではありません。元号の決定や官位の授与、朝廷儀式の執行など、国家において無視できない影響力を保持し続けました。また、鎌倉幕府の執権北条氏、室町幕府の足利氏、江戸幕府の徳川氏といった各時代の将軍家も、それぞれの政権内で権力を継承する「家筋」として機能しており、ある意味で「王朝」的な性格を持っていたと見ることも可能です。

こうした点を踏まえると、「王朝時代」とは、武家政権が確立される以前、具体的には源頼朝によって鎌倉幕府が樹立されるまでの間、天皇を中心とする朝廷が政治の実権を掌握していた時代を指す、と理解するのが最も一般的かつ正確と言えるでしょう。

文化史的な用法

日本の文化史的な文脈においては、主に朝廷を舞台に花開いた平安時代の国風文化を特に強調する際に、この文化が隆盛を極めた期間を指して「王朝時代」と呼ぶこともあります。

この用法の場合、具体的な期間としては、律令体制が弛緩し国風文化が発展した平安中期にあたる10世紀頃から、武家政権の台頭を告げる平氏政権期まで、あるいは院政期が始まる以前までを指すことが多いです。これは、藤原氏をはじめとする宮廷貴族社会を中心に育まれた、和歌や物語文学、書道、絵画など、洗練された日本独自の文化の特色を示すための言葉と言えます。

「王朝国家」との関連性

なお、戦後の歴史学においては、10世紀から11世紀にかけての国家体制を、それまでの律令体制とは質的に異なる「王朝国家」と位置づける学説（王朝国家論）が提唱されました。これは、律令体制が実態に合わなくなり、新たな支配構造（荘園公領制など）が形成された時期の国家のあり方を説明する概念です。

しかし、「王朝時代」が天皇の政治実権が強かった時代全般、すなわち律令体制が機能していた飛鳥・奈良時代をも含む広範な概念であるのに対し、「王朝国家」は律令体制が弛緩し、新たな支配体制が形成された特定の時期（概ね10世紀～11世紀）を指す言葉です。したがって、両者は似て非なる概念として、その指し示す時代や内容が異なる点に注意が必要です。

「王朝時代」は、天皇を中心とした朝廷が日本の政治・文化の中心であった時期を総称する言葉として、現代の歴史教育や文化論において広く用いられています。

もう一度検索