王畿

王畿（おう き、1498年 - 1583年）は、明代中期に活躍した儒学者であり、字は汝中（じょちゅう）、号は龍渓（りゅうけい）と称しました。彼は浙江省紹興府山陰県（現在の紹興市越城区）の出身で、陽明学の創始者である王守仁（王陽明）の門下生として、その学問を深く探求しました。

王畿は、王陽明の有力な弟子の一人であり、同門の銭徳洪（せん とくこう、号は緒山）と並び称されるほどの存在でした。王陽明自身も、門人たちに「王と銭の二人は越中にいる。若輩の者が彼らに問い質せば、私に会うのと変わりない」と語ったと伝えられています。王陽明の没後、王畿は三年間の喪に服し、師への敬意を深く示しました。

嘉靖11年（1532年）には進士に及第し、官途に就きましたが、後に官を辞して野に下り、その後40年間にわたり江南地方で講学活動に専念しました。この間、王陽明の提唱した「致良知」の教えを広めることに尽力しました。王畿の学問的貢献は、師である王陽明の「無善無悪」の説をさらに発展させ、「四無説」と呼ばれる独自の思想を確立したことにあります。この四無説は、後の思想家たちに大きな影響を与えることになりました。

特に、李贄（り たくご、号は李卓吾）は、王畿と羅汝芳（ら じょほう）の二人を師と仰ぎ、その著書『焚書』において、「二先生の書物を読まない年はなく、二先生の説を語らない時はない」と述べ、王畿の思想を深く敬愛していたことがわかります。

また、王畿の思想は、江戸時代の日本にも伝わり、中江藤樹（なかえ とうじゅ）をはじめとする多くの儒学者たちに影響を与えました。中江藤樹は、陽明学を日本に広めた先駆者の一人として知られており、王畿の思想が日本における陽明学の発展に重要な役割を果たしたことがうかがえます。

王畿の主著としては、『龍渓先生全集』があります。また、彼の生涯や思想については、『明史』巻283、『明史稿』巻185、『明詩綜』巻41、『明儒学案』巻12などに記述が残されています。

王畿は、王陽明の思想を継承しつつも、独自の解釈と発展を加え、明代の儒学に大きな足跡を残しました。彼の講学活動は、多くの門下生を育て、その思想は後世にまで大きな影響を与え続けています。

彼の思想は、単に学問的な領域にとどまらず、倫理や道徳、さらには社会思想にまで及び、人々の生き方や価値観に深い影響を与えました。王畿の生涯と業績は、東アジアの思想史において重要な位置を占めています。

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