球状トカマク

球状トカマク：核融合エネルギー実現への革新的アプローチ

球状トカマク(Spherical Tokamak)は、超高温プラズマを閉じ込めるための磁気閉じ込め方式の一種であり、従来のトカマク型核融合炉とは異なる形状と特性を持っています。その最大の特徴は、プラズマの形状が球状に近いことです。これは、プラズマの直径と太さの比（縦横比）が1に近いことを意味し、従来のドーナツ状のトカマクと比較して、よりコンパクトで効率的なプラズマ閉じ込めを実現します。

球状トカマクの利点

球状トカマクの最大の利点は、その経済性にあります。プラズマを太くすることで、プラズマの表面積を減少させることができ、結果として高温状態を維持するためのエネルギー消費を抑えることができます。また、必要な磁場の強度を低く抑えられるため、強力な磁場を作るための巨大なコイルが不要となり、装置の製造コストの大幅な削減につながります。さらに、トロイダル磁場コイルの巻回密度が低くなるため、中性子被ばくによる損傷を受けた真空容器内壁の交換作業も容易になり、保守コストの削減にも貢献します。セクター一括引き抜き保守方式の採用によって、ダウンタイムの短縮と高稼働率の実現も期待できます。

高温プラズマ閉じ込めの安定性と課題

球状トカマクは、低磁場でも高温高密度プラズマの閉じ込めを実現できる一方、高エネルギー粒子に起因するMHDモード（高エネルギー粒子モード）の発生という課題も抱えています。このモードはプラズマの安定性を損ない、核融合反応を持続的に行う上で大きな障害となります。この問題に対する解決策の研究開発は、球状トカマクの実用化に向けて重要な課題です。また、プラズマを太くしたことで表面積が減少する一方で、従来の除熱技術を用いる場合、単位面積あたりの熱負荷が増大するという問題もあります。そのため、熱負荷に対応できる新たなブランケット技術の開発も必要不可欠です。

設計上の利点と今後の展望

球状トカマクは、低アスペクト比という形状からくる利点を数多く有しています。高楕円度でのプラズマの安定性、高ベータ限界（プラズマ圧力と磁場圧力の比が高くなる）、磁気エネルギーの大幅な低下によるトロイダル磁場コイルの軽量化など、炉心プラズマに関する様々なメリットがあります。これらの利点は、高稼働率の実現に繋がるセクター一括引き抜き保守方式との高い親和性を示しており、炉設計上の大きな強みとなります。

今後の研究開発においては、MHDモードの抑制、高熱負荷に対応できるブランケット技術の開発、そして経済性と信頼性をさらに向上させるための技術革新が求められます。これらの課題が克服されれば、球状トカマクは、安全でクリーン、そして経済的な核融合エネルギーを実現するための有力な候補として、大きな役割を果たすことが期待されます。

関連技術

球状トカマクの研究開発は、核融合エネルギー研究における幅広い分野と密接に関連しています。慣性閉じ込め方式、磁場閉じ込め方式、磁気ミラー型、慣性静電閉じ込め核融合、高ベータ核融合炉などは、球状トカマクの技術開発に影響を与え、また、球状トカマクの研究成果がこれらの技術の発展にも貢献する可能性を秘めています。

参考文献

西尾敏、「球状トカマクの実用炉への展望 -トカマクの低アスペクト比化への挑戦- 5.ST で現実的な炉設計は可能か? 5.1 炉概念構築に向けて」 『プラズマ・核融合学会誌』 2004年 80巻 11号 p.944-948, doi:10.1585/jspf.80.944
長山好夫、「球状トカマクはなぜ注目されるのか?」 『電気学会論文誌 A (基礎・材料・共通部門誌)』 2003年 123巻 4号 p.323-328, doi:10.1541/ieejfms.123.323
小野靖, 西尾敏, 高瀬雄一, et al. 「球状トカマクの実用炉への展望 -トカマクの低アスペクト比化への挑戦- 1.特集にあたって」 『プラズマ・核融合学会誌』 2004年 80巻 11号 p.919-920, doi:10.1585/jspf.80.919
小野靖、「球状トカマクの実用炉への展望 -トカマクの低アスペクト比化への挑戦- 2.ST はどこまで高ベータ化できるか? 2.1 高ベータ運転の限界はどこか?」 『プラズマ・核融合学会誌』 2004年 80巻 11号 p.921-923, doi:10.1585/jspf.80.921
* 小野靖, 西尾敏, 高瀬雄一 ほか、「球状トカマクの実用炉への展望 -トカマクの低アスペクト比化への挑戦- 1.特集にあたって」 『プラズマ・核融合学会誌』 2004年 80巻 11号 p.919-920, doi:10.1585/jspf.80.919, プラズマ・核融合学

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