理想化と脱価値化

理想化と脱価値化の心理学的メカニズム

理想化（りそうか、idealization）と脱価値化（だつかちか、devaluation）は、精神分析学における重要な概念です。これらは、感情を統合することが難しい時に、人間がどのように心理的防衛を働かせるかを示しています。

スプリッティングと防衛機制

人は時として、耐え難い感情に直面する際、その認識を克服するために「スプリッティング」と呼ばれる防衛機制を使用します。このスプリッティングは、物事や人物を完全に善か悪のいずれかに分類してしまう特徴があります。この過程で、完全にポジティブな見方をすることで「原始的理想化」が生まれます。この状態では、特定の対象を過剰に理想化し、その反対側としてのネガティブな側面を排除します。

原始的理想化と高次の理想化

原始的理想化が行われると、対象の良い側面だけが誇張され、一方で悪い部分は見えなくなります。これに対して「高次の理想化」は、対象の否定的側面を意識しながら、自身の攻撃性を否認する働きです。これは、罪悪感を避けるために行われることが多く、自らの攻撃的感情を受け入れられないときに発生します。

脱価値化の形成

スプリッティングの反対側として存在するのが脱価値化です。理想化していた対象に対する期待が裏切られたときに、一転してその対象を無価値なものと評価することが起こります。これは、期待に応えなかった相手への報復として、相手の価値を低下させる行為であるともいえます。また、将来的に自己を脅かす可能性のある相手の能力を減じることも意味します。

児童の発達における理想化と脱価値化

子どもの発達過程においては、理想化と脱価値化は非常に普通の現象です。幼児期の子どもは、人間の本性が良い部分と悪い部分の両方を持つ複雑なものであることを学びます。この学びが途絶えると、大人になるまで理想化や脱価値化の防衛機制が続くことがあります。このような発達の停滞は、精神的な外傷が原因となることが多いです。

フロイトの理論

この理論の元は、ジークムント・フロイトの考えにあります。理想化という言葉は、フロイトがナルシシズムに関する論文で初めて使われました。彼は、幼児が自分を世界の中心とみなす「原始的ナルシズム」という段階を通過すると記しています。子どもたちは、親の愛情を得るために親の価値観を取り込み、それを内在化することで自我理想を生成します。

二次的ナルシズム

フロイトは、子どもが自己の現実と自我理想との間に矛盾を感じた際、精神的防衛がしばしば現れる場合、それを病的な状態と見なし、これを「二次的ナルシズム」と呼びました。これは、自己が理想化された状態を指します。

結論

理想化と脱価値化は、心の防衛において非常に重要な役割を果たします。これらは心理的健康の理解や、児童期の発達段階、さらには精神的な問題の分析において重要な視点を提供します。これらの概念について深く理解することで、自身や他者への理解を深める助けとなることでしょう。

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