生分解

生分解：自然の力による物質の分解

生分解とは、微生物（バクテリアや菌類など）の作用によって、有機化合物がより単純な無機物へと分解される自然現象です。地球上の物質循環において重要な役割を果たしており、あらゆる有機物は最終的に生分解によって無機物となります。しかし、その分解速度は物質の種類や環境条件によって大きく異なります。

光、水、酸素、温度といった環境要因に加え、物質自体の構造も分解速度に影響を与えます。分解されやすい物質は、微生物にとって利用しやすい構造をしているため、迅速に分解されます。この微生物による分解作用は、バイオレメディエーション（生物修復）と呼ばれ、環境浄化技術においても活用されています。

生分解の問題点：ABS洗剤の例

生分解の重要性を示す好例として、かつて使用されていたABS（分枝鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム）洗剤が挙げられます。1960年代に広く使用されたABS洗剤は、微生物による分解が非常に遅く、河川や下水処理場に大量に残留しました。その結果、土壌菌への悪影響や、河川の水面を泡で覆うなどの環境問題を引き起こし、下水処理の効率を著しく低下させました。この問題を解決するため、微生物により容易に分解されるLAS（直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム）が開発され、ABS洗剤はLAS洗剤に置き換えられました。この事例は、物質の生分解性と環境保全の密接な関係を示しています。

生分解性の評価：様々な試験方法

物質が生分解される速度や程度を評価するために、様々な試験方法が開発されています。これらの試験は、物質の環境リスクを評価し、より環境に優しい物質の開発や選択に役立ちます。主な試験方法には以下のものがあります。

易生分解性試験: OECD、EU、OPPTS、ISOなど多くの機関が標準試験法を策定しており、有機物質の生分解性を評価します。これらの試験では、一定期間内に物質がどの程度分解されるかを測定します。代表的な試験法として、OECDテストガイドライン301A-F、EU C.4テスト、OPPTS 835.3110、ISO 9408, 9439, 10707などが挙げられます。

本質的生分解性試験: OECDテストガイドライン302A-C、EU C.9およびC.12、ASTME 1625-94試験など、物質が完全に二酸化炭素や水などに分解される能力を評価する試験です。

水系シミュレーション試験: ISO／DS14952、ASTM E 1279-89(95)、OPPTS 835.3170など、実際の河川や湖沼などの水環境を模擬した条件下で生分解性を評価する試験です。

STP（下水処理場）シミュレーション試験: OECDテストガイドライン303A、ISO 11733、EU C.10試験など、下水処理場での物質の分解挙動を評価する試験です。

嫌気的分解性試験: ISO 11734:1995(E)、ASTM E 1196-92、OPPTS 835.3400など、酸素がない条件下での分解性を評価する試験です。

土壌および底質中の分解試験: OECDテストガイドライン304A、OPPTS 835.3300など、土壌や底質中での物質の分解性を評価する試験です。

さらに、日本工業規格（JIS）にも生分解性に関する規格（JIS K 6950、JIS K 6951、JIS K 6953、JIS K 6955など）が定められています。

関連概念：堆肥化

生分解と関連性の高い概念として、堆肥化があります。堆肥化は、生物系廃棄物を微生物の作用によって、土壌改良材として利用できる堆肥へと変化させる処理方法です。堆肥化は、廃棄物の減量化・資源化に貢献するだけでなく、土壌の改良や環境保全にも役立ちます。

まとめ

生分解は、物質の環境運命を理解する上で非常に重要な概念であり、環境問題の解決に大きく貢献します。様々な生分解性試験法の開発と活用により、環境負荷の少ない物質の開発、環境リスクの低減が促進されています。今後も、生分解に関する研究開発は、持続可能な社会の実現に不可欠な役割を果たしていくでしょう。

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