生殖的隔離

生殖的隔離とは

生殖的隔離とは、生物学において、二つの個体群間で有性生殖を通じた遺伝的な交流が起こらない状態を指します。広義には生殖が全く行えない状況を、狭義には同じ場所に生息していても交雑が起こらない仕組みを指します。生殖的隔離は、二つの生物群を異なる種とみなす上で重要な根拠となります。

ただし、人工授精などの人為的な手段を用いれば、生殖的隔離の壁を超えて雑種が生まれる可能性もあります。

隔離機構の種類

生殖的隔離をもたらす機構は多岐にわたりますが、大きく分けて交配前隔離と交配後隔離の2つに分類されます。

1. 交配前隔離（接合前隔離）

交配前隔離は、そもそも交配が成立しないように働く隔離機構です。具体的には以下のような例があります。

配偶行動の差異: 異なる種間では求愛行動や配偶行動が異なるため、互いに惹かれ合わず、生殖行為に至りません。例えば、ホタルの発光パターンが種間で異なる場合、異種間では交配が行われません。
生殖器の不適合: 昆虫などでは、雄と雌の生殖器の形状が異なるため、物理的に交尾が成立しない場合があります。
生理的な不適合: 生理的な理由により、交配自体が成立しない仕組みが存在します。

2. 交配後隔離（接合後隔離）

交配後隔離は、交配は成立するものの、その後に生殖が成立しないように働く隔離機構です。具体的には以下のような例があります。

流産: 交尾は成立しても、受精卵が正常に発生せず、流産してしまう場合があります。ゲノムインプリンティングなどが原因として考えられます。
* 雑種の不稔性: 雑種が生まれたとしても、生殖能力が欠如しているため、子孫を残すことができません。例えば、ウマとロバの交雑によって生まれるラバは、通常不妊です。

隔離と種分化

生物の進化において、隔離は種分化の主要な原因であると考えられています（隔離説）。ここでいう隔離は、地理的な隔離だけでなく、生殖的隔離も含まれます。

二つの生物群が生殖的に隔離されると、それぞれの遺伝子プール内でのみ遺伝的な変化が蓄積されるようになります。その結果、両者の遺伝的な差異が拡大し、最終的には異なる種へと分化していくと考えられます。

また、生殖的に隔離された個体群間に形質の差が見られる場合、それらを別種とみなす考え方があります。ただし、形質の差が小さい場合は、亜種や変種として扱われることもあります。このように、生殖的隔離は種を定義する上での重要な要素の一つと考えられています。

注意点

生殖的隔離は、種を定義する上で重要な概念ですが、常に当てはまるとは限りません。生物種によっては、ごく稀に交雑が起こり、繁殖力のある子孫を残す場合もあります。

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