田中啓爾

田中啓爾

日本の近代地理学を牽引し、その発展に大きく貢献した人物として知られるのが、田中啓爾（たなか けいじ）です。1885年（明治18年）12月8日に生まれ、1975年（昭和50年）1月5日に89歳でその生涯を閉じました。彼は地誌学を中心とした人文地理学を専門とし、特に地理教育の分野で顕著な功績を残し、数多くの地理学研究者や地理教師を育て上げました。

経歴と学び

田中啓爾は東京府東京市牛込区（現在の東京都新宿区）に生まれ、福岡県上毛郡（現在の豊前市）で育ちました。福岡県師範学校などで学んだ後、東京高等師範学校（現在の筑波大学）本科地理歴史部に進学。ここでは、地理学者の山崎直方や歴史学者の三宅米吉から大きな影響を受け、地理学の道を志すことになります。

学生時代は学業に秀でていただけでなく、スポーツでも優れた才能を発揮しました。

研究と教育活動

1912年に東京高師を卒業後、長崎県師範学校教諭として教職に就きます。その後、東京高等師範学校附属中学校講師、同校助教諭を経て、1920年教諭に昇進。同年から欧米へ留学し、当時の著名な地理学者に学び見識を深めました。

帰国後の1923年、東京高等師範学校の教授に就任し、地理学部門を担います。田中は地誌学を専門とし、特に現地での実地調査、すなわちフィールドワークの重要性を強く提唱し、これを地理学研究の基盤として確立したことは特筆されます。

1929年に東京文理科大学（現在の筑波大学）が併設され地理学専攻が設置されると、田中はその初代主任に就任。大学内に大塚地理学会を設立し、学生に対し合宿形式での実地調査指導を行うなど、実践的な教育に力を入れました。青野寿郎、三野与吉、尾留川正平、町田貞といった、後に日本の地理学界を代表する研究者たちは、田中のもとで学びました。

1947年に東京文理科大学を退官した後も、立正大学教授として同大学の地理学教室の発展に貢献しました。1952年には日本地理学会の会長を務め、1955年には理学博士の学位も取得しています。

地理教育への貢献

田中啓爾は、研究活動と並行して地理教育の普及・向上にも尽力しました。文部省の教員検定試験出題委員を務め、特に地理教師向けの講習会や講演会では、郷土教育の重要性を熱心に説き、当時の地理教育現場から広く支持を得ました。

また、一般向けの啓蒙活動も行い、地誌学の入門書『我等の国土』はベストセラーとなり、地理学への一般の関心を高めるのに貢献しました。

まとめ

田中啓爾は、地誌学研究におけるフィールドワークの定着、東京高師・文理大・立正大での優れた人材育成、そして郷土教育を中心とした地理教育論の提唱などを通じ、日本の近代地理学および地理教育の発展に決定的な役割を果たしました。

研究者、教育者として、日本の地理学の基礎を築き、次世代への道を拓いたその功績は計り知れません。1975年、89歳で死去。墓所は多磨霊園にあります。

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