田中敏文

田中敏文：戦後北海道の礎を築いた知事

田中敏文（たなか としぶみ）は、1911年11月9日生まれ、1982年12月20日に没した日本の政治家です。戦後初の公選による北海道知事として、その名を歴史に刻みました。

若き知事の誕生と道政への挑戦

1935年、九州帝国大学農学部林学科を卒業後、北海道庁に入庁。林政部森林土木係長、全道庁職員組合委員長を歴任しました。1947年4月、日本社会党から北海道長官選挙に出馬し、見事当選。当時35歳という若さで、全国最年少の公選知事となりました。これは2023年現在においても、史上最年少記録として破られていません（官選を含めると陸奥宗光が24歳で兵庫県知事に就任した例があります）。道庁職員のトップに上り詰めた人物としても知られています。

北海道開発への貢献

田中知事は、1951年に「新長期計画」を策定し、「食糧生産の増発」「地下資源の調査開発」「交通の整備」「電源の開発」の4つを目標に掲げました。戦後復興と国際政治の状況を踏まえ、テクノクラートとしての視点から開発を推進し、政治的中立性を重視しました。科学と専門知識に基づいた道政を理想とし、北方四島返還の喚起にも積極的に取り組みました。また、防衛問題においては社会党右派の立場を反映し、広川弘禅が主導した北海道分県論には反対しました。

田中革新道政は、1930年代の帝国再編の試みに端を発し、戦後は近代化論と結びついた反共社民主義の系譜にあると評価されています。

知事引退後と晩年

1954年には、昭和天皇、香淳皇后の北海道行幸の全日程に随行。3期にわたる知事としての任期を終えた後は、北海道造林技術センター会長、日本緑化センター理事、工業開発研究所理事などを務めました。1982年12月20日、心不全のため虎の門病院で死去。71歳でした。

エピソード

田中革新道政を危険視した吉田茂が「赤い道庁」を潰すために北海道開発庁を設置したという説がありますが、近年の研究では疑問視されています。

また、九州帝国大学農学部の後輩である中川一郎（後に自民党の有力政治家）が、教授の紹介状を持って田中知事を訪れた際、多忙のためなかなか会ってもらえなかったことに腹を立て、紹介状を焼いてしまったというエピソードも残っています。

田中敏文は、その若さと実行力で北海道の戦後復興を牽引し、今日の発展の礎を築いた人物として、記憶されるべきでしょう。

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