田村昌三

1940年に広島県に生を受けた田村昌三（たむら まさみつ）は、日本の学術界において安全工学および火薬学を専門とする著名な工学者であり、東京大学名誉教授の称号を持つ。

学歴と初期研究

学究の道に進んだ田村氏は、東京大学大学院工学系研究科燃料工学専門課程にて学びを深め、1969年に博士課程を修了し、工学博士の学位を取得した。博士論文のテーマは「硝酸酸化とニトロ化に関する研究」であり、これは爆薬の合成など火薬学の基礎に関わる重要な探求であった。

職歴

大学院修了後、一時的に産業界の東洋紡績株式会社に勤務したが、その後アカデミアに戻り、母校である東京大学でのキャリアをスタートさせた。

東京大学工学部反応化学科で講師、そして助教授を歴任。
1990年より東京大学工学部反応化学科教授に昇任。
工学部の学科再編に伴い、1994年に化学システム工学科教授に。
1995年には大学院工学系研究科化学システム工学専攻教授として大学院での教育・研究を主導。
1999年からは活動の場を大学院新領域創成科学研究科環境学専攻に移し、安全学を環境という広範な視点から捉える研究教育を行った。

東京大学を退官した後も、その豊富な知識と経験は引き続き求められた。2004年からは横浜国立大学安全・安心の科学教育研究センター教授として招聘され、後進の指導と研究推進に貢献した。2009年からは同センターの客員教授を務めている。

社会的な貢献

田村氏の実践的な安全工学の知見は、社会における安全確保にも大きく貢献している。特に、2014年1月9日に発生した三菱マテリアル四日市工場での爆発事故では、その原因究明と再発防止策の提言を行う事故調査委員会の委員長を務めた。専門家としての深い洞察力と公正な視点から事故の分析を行い、産業界の安全向上に尽力した。

受賞歴

長年の研究教育および社会に対する貢献に対し、多くの栄誉が授与されている。

1987年：昭和61年度工業火薬協会論文賞
2000年：通産大臣表彰 保安功労賞
2001年：平成12年度石油学会賞論文賞（山田洋大、阿久津好明、新井充、田村昌三）
2005年：安全功労者として内閣総理大臣より表彰

主な著書

安全工学、火薬学、化学安全など、専門分野に関する多数の著作に関わっている。監訳、監修、編著、共著と様々な形で専門知識の普及に努め、多くの書籍がこの分野の研究者や技術者にとって不可欠な参考文献となっている。

吉田忠雄・田村昌三監訳：「エネルギー物質の科学」（朝倉書店、1996年）
吉田忠雄・田村昌三監修：「化学薬品の混触危険ハンドブック」（日刊工業新聞社、1997年）
田村昌三監訳：「ブレスリック　危険物ハンドブック」（丸善、1998年）
（社）火薬学会編 田村昌三編著：「エネルギー物質ハンドブック」（共立出版、1999年）
田村昌三・新井充・阿久津好明共著：「エネルギー物質と安全」（朝倉書店、1999年）
田村昌三編著：「化学プロセス安全ハンドブック」（朝倉書店、2000年）
田村昌三編集代表：「安全の百科事典」（丸善、2002年）
田村昌三監訳：「化学安全ハンドブック」（丸善、2003年）
田村昌三編集代表：「化学物質・プラント事故事例ハンドブック」（丸善、2003年）

これらの著作を通じて、研究の成果を広く共有し、化学物質を取り扱う産業界における安全確保のための重要な指針を提供している。

まとめ

田村昌三氏のキャリアは、基礎的な火薬学研究から始まり、産業安全、化学プロセス安全、環境学といった広範な分野を網羅している。教育者として数多くの優秀な人材を育成したことに加え、重大事故の調査委員長としての貢献や、多数の専門書の執筆・監修を通じて、日本の安全工学の発展と社会全体の安全確保に多大な功績を残した。

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