田辺大根

田辺大根とは

田辺大根（たなべだいこん）は、大阪府大阪市東住吉区田辺地区で栽培されてきた、なにわの伝統野菜の一つです。江戸時代から栽培され、一時市場から姿を消しましたが、近年、地域の人々の手によって復活しました。

歴史

田辺大根の歴史は、5世紀から6世紀にかけての地質変化にまで遡ります。上町台地の東側は、かつて内海湖でしたが、海岸線の後退により淡水湖となり、大和川や淀川の土砂が堆積し、肥沃な砂質土壌が形成されました。この土地で、江戸時代中期、大和川の付け替え工事によって広がった干拓農地で野菜や木綿が栽培されるようになりました。また、大坂が「天下の台所」として発展したことで食文化が高度化し、様々な食材が持ち込まれ、独自の味を持つ農産物が生まれていきました。

田辺大根は、白あがり京だいこんとねずみだいこんが交雑し、田辺地区に土着したのがルーツとされています。江戸時代にはすでに栽培されており、天保7年（1836年）の文献にもその記述が見られます。明治時代には、短根で縦横がほぼ同じ長さだったものが、次第に縦長に改良されました。縦長の田辺大根は、特に「横門大根」と呼ばれることもあります。この「横門」は、東住吉区山坂にある法楽寺の門に由来するという説があります。

特徴

田辺大根は、根の部分が白色の円筒形で、先端が少し膨らみ、丸みを帯びています。長さは約20cm、太さは約9cmほどです。一般的な大根と比べて糖度が高く、粘りがあるのが特徴です。加熱すると甘みが増すため、主に煮物に使われ、甘漬にも適しています。葉には毛がなく、小松菜のような外見をしています。播種時期は9月が適しており、1アールあたり700〜800株を栽培すると、300〜400kgの収穫が見込めます。収穫時期は11月から翌年1月です。

復活と保存

明治時代以降、食生活の洋風化や、消費者の嗜好が変化したことにより、伝統野菜は生産性や外見を重視した新しい品種に押され、市場から姿を消すようになりました。田辺大根も例外ではなく、宅地化の進行と1950年頃に発生したウイルス病によって、一時市場から姿を消しました。

しかし、1987年、大阪府立食とみどりの総合技術センターの元研究者である森下正博氏が、大阪市の農産物品評会で田辺大根の種子を発見しました。森下氏から種子を譲り受けた市民グループ「田辺大根ふやしたろう会」が1999年に結成され、原産地での復活栽培を目指しました。同会メンバーの谷福江氏は、「田辺大根は地域の人々を結ぶ材料になっている」と述べています。

2005年には、大阪府の制度である「なにわの伝統野菜」の認証が始まり、田辺大根もその認証を受けました。現在では、原産地の大阪市以外にも、河南町、貝塚市、堺市など、府内各地で栽培されています。また、2018年にはテレビ番組「満天☆青空レストラン」でも紹介されました。

法楽寺と田辺大根

2003年12月20日には、法楽寺の境内に「田辺大根の碑」が建立されました。法楽寺では毎月28日に不動縁日が行われますが、特に年末の12月28日に行われる「しまい不動」は多くの参拝客を集めます。田辺大根が復活して以降、この「しまい不動」では、田辺大根と近江の赤こんにゃくを使った大根炊きが参拝客に振る舞われています。

このように、田辺大根は歴史と文化を背負った伝統野菜として、地域の人々に愛され続けています。

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