田部シメ子

田部シメ子：太宰治の心中相手、「道化の華」のモデルとなった女性

田部シメ子（たなべ しめこ、1912年12月2日 - 1930年11月29日）は、作家・太宰治の恋人の一人であり、本名田部あつみ、田辺あつみとも呼ばれていました。彼女は、太宰の短編小説「道化の華」（1935年）に登場する心中事件の相手「園」のモデルとして知られています。

生涯

田部シメ子は、1912年に広島県安佐郡字小河内（現在の広島市安佐北区）で、田部島吉・シナ夫妻の四女として生まれました。「シメ子」という名前には「この子で終わりにしよう」という意味が込められていましたが、本人はこの名前を嫌い、兄と相談して幼い頃から「あつみ」と名乗っていました。

学業優秀だった彼女は、広島市立第一高等女学校（現在の広島市立舟入高等学校）に進学しますが、3年生の時に中退。その後、広島の繁華街である新天地の大型喫茶店「平和ホーム」で女給として働き始めます。そこで、客の一人であった高面順三（喫茶店経営者）と知り合い、同棲するようになりました。当時、彼女は田辺あつみと名乗っていました。

1930年の夏、新劇の舞台俳優を目指す高面と共に上京しますが、高面の就職先が見つからず、生活費を稼ぐために銀座のカフェ「ホリウッド」で田辺あつみとして働き始めます。そこで、客の一人であった津島修治、後の太宰治と出会います。

同年11月28日、田部は太宰と共にカルモチンを購入し、鎌倉へ向かいます。その夜から明け方にかけて、二人は七里ガ浜海岸の小動神社裏海岸で大量のカルモチンを服用し、心中を図ります。その結果、田部のみが死亡し、太宰は一命を取り留めました。死の間際、田部が最後に叫んだ名前は太宰の名ではなかったと伝えられています。

この事件後、太宰は自殺幇助の容疑で逮捕され、取り調べを受けますが、警察庁鎌倉署の担当刑事である村田義道が太宰の父・津島源右衛門の小作人の息子であったこと、また、管轄の横浜地方裁判所長である宇野要三郎が太宰の父の姻戚であったことなどから、起訴猶予処分となりました。

事件の真相

この事件については、様々な憶測が飛び交っています。太宰がカルモチンの常用者であり、その耐性があったこと、そして「道化の華」の中で、太宰が「僕はこの手もて、園を水にしづめた。僕は惡魔の傲慢さもて、われよみがへるとも園は死ね、と願つたのだ」と記述していることから、この事件が太宰による計画的な殺人だったとする説も存在します。

しかし、これらの説はあくまで憶測の域を出ず、事件の真相は未だ謎に包まれています。田部シメ子の短い生涯は、太宰治との出会いと悲劇的な結末によって、文学史にその名を刻んでいます。

関連事項

* 太宰治と自殺

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