田鎖郁男

田鎖 郁男

田鎖 郁男（たくさり いくお）は、1965年に生まれた日本の実業家です。長年にわたり、日本の住宅・建築分野、特に木造建築の構造技術において重要な役割を果たしています。現在は、自身が設立した株式会社エヌ・シー・エヌの代表取締役として経営の指揮を執る傍ら、MUJIHOUSE株式会社の専務取締役も兼任しています。耐震性能の向上やエンジニアリングウッドの活用を通じて、安全で質の高い住まいづくりを追求しています。

経歴

1965年に生を受けた田鎖氏は、千葉大学工学部で建築学を専攻し、構造や材料に関する専門知識を修得しました。大学での学びを経て、1989年には総合商社である日商岩井株式会社（現在の双日株式会社）に入社します。日商岩井では、木材本部に配属され、集成材やLVL（単板積層材）といったエンジニアリングウッドのマーケティング活動に従事しました。この商社での経験を通じて、木材の持つ可能性と、建築市場における構造材としての位置づけについて深い理解を得ました。

商社勤務を経て、木造建築の構造的な課題に着目した田鎖氏は、自らの手で新たな木造建築の可能性を追求することを決意します。1996年、株式会社エヌ・シー・エヌを設立しました。同社は、「SE構法」というシステムを開発・普及させることを主軸事業としました。SE構法は、構造計算に基づいた高精度な部材加工と接合技術により、木造でありながら鉄骨造やRC造に匹敵する高い耐震性能を実現するものです。これにより、従来の木造建築では難しかった大空間や大開口を持つ、自由度の高い設計が可能となりました。

会社設立から十余年を経た2007年、田鎖氏は株式会社エヌ・シー・エヌの代表取締役に就任しました。以来、現在に至るまで経営トップとして、SE構法の普及と技術開発を推進し、同社を業界におけるリーディングカンパニーへと成長させました。そして、設立から13年目の2009年には、株式会社エヌ・シー・エヌは東京証券取引所ジャスダック市場への新規上場を果たし、企業としての信頼性と事業基盤を一層強固なものとしました。上場は、同社の技術とビジネスモデルが市場から高く評価された証です。

また、同2009年には、MUJIHOUSE株式会社の専務取締役にも就任しています。MUJIHOUSEは、生活雑貨から住宅まで幅広い事業を展開する無印良品の住宅部門であり、シンプルで長く住み続けられる家づくりをコンセプトとしています。株式会社エヌ・シー・エヌは、MUJIHOUSEに対して構造躯体であるSE構法を提供しており、田鎖氏のMUJIHOUSEでの役職は、両社の連携強化および「無印良品の家」における構造技術の信頼性確保に貢献しています。

建築哲学と社会への貢献

田鎖氏の活動を通じた哲学は、「安全で豊かな暮らしを木造で実現すること」に集約されます。地震大国である日本において、建築物の耐震性は最も重要な要素の一つです。彼は、古来より日本で親しまれてきた木の文化を大切にしながらも、現代科学に基づく構造計算と高い加工技術を組み合わせることで、従来の木造建築のイメージを刷新し、安全性とデザイン性を両立させた住宅の普及を目指しています。SE構法の提供に加え、建築士や工務店への技術指導、品質管理の徹底などを通じて、安全な木造建築の裾野を広げることに貢献しています。

著作活動

家づくりや耐震性に関する啓発活動にも積極的です。自らの知見や経験に基づき、複数の書籍を出版しています。主な著作としては、家づくりの際に陥りがちな誤解や、構造・耐震の重要性について分かりやすく解説した『家、三匹の子ぶたが間違っていたこと』（ダイヤモンド社）、長期的な視点での住まい選びや「200年住宅」の考え方を示した『三匹の子ぶたも目からウロコの200年住宅』（ダイヤモンド社）、そして一般向けに木の家の建築プロセスやポイントを解説した『そうか、こうやって木の家を建てるのか。』（小学館）などがあり、これらを通じて、より多くの人々が賢く、安心して家を建てられるよう情報を提供しています。

情報発信

近年は、YouTubeチャンネル「耐震住宅に住もう『教えて! 田鎖さん』」を開設し、動画による情報発信も行っています。専門的な内容を分かりやすく解説することで、耐震性に関する関心を高め、一般消費者の家づくりにおける判断材料を提供しています。

実業家として企業を経営するだけでなく、技術の普及や情報発信を通じて、日本の木造建築の安全性向上と、木材利用の推進に貢献し続ける人物と言えます。

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