男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎

『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』

1983年12月28日に公開されたこの映画は、「男はつらいよ」シリーズの第32作目であり、観客動員数は148万9000人を記録しました。上映時間は105分で、配給収入は12億5000万円にも達しました。この作品は、寅次郎の人間味あふれるキャラクターが様々な人間関係や感情と向き合う様子が描かれています。

あらすじ

物語は、寅次郎が旅先で夢を見るところから始まります。夢の中では、彼の家族・さくらが寅次郎の結婚相手を見つけようと奔走し、結婚の日が近づいている様子が描かれます。しかし、現実に戻ると、とらやに帰った寅次郎は家族に気付かれず、偽の寅次郎が訪れて大歓迎されるというハプニングが起こります。これはまさに寅次郎らしいすれ違いのエピソードとして、観客に笑いを誘います。

旅を続ける寅次郎は、備中高梁の寺で和尚と出会い、彼の娘・朋子に心を奪われてしまいます。朋子は強い女性で、寅次郎に一目惚れされたことを徐々に受け入れていきます。和尚との信頼関係が築かれる中、寅次郎は法事に参加し、坊主役を演じることになりますが、これがまた周囲を驚かせる結果を招くのです。

一方、朋子には大学を辞め、東京の写真スタジオで働く兄・一道がいます。和尚は彼を勘当し、家族の期待を背負った道を歩く彼の姿が、寅次郎とはまた異なる家族の事情を浮き彫りにします。道の恋人であるひろみとの最後の別れが描かれ、彼女が東京に上京する際に、寅次郎とも繋がりができるのです。

朋子との再会を果たした寅次郎は、彼女の気持ちに気付きつつも、その冗談に受け流してしまいます。このことが寅次郎の心の葛藤を象徴しており、観客にも強い共感を引き起こします。朋子が結婚を考えている中で、寅次郎は人妻の身分に足を踏み入れることができるのか、彼の結末には誰もが期待を寄せます。

解説

本作は、人情劇としての側面を強く持ちながらも、寅次郎の無邪気さや笑いに包まれた切ないストーリーが広がっています。寅次郎が朋子との結婚を忌避し、自身の心の葛藤を抱える姿は、観客に深い印象を残します。この作品は実際には寅次郎の成長や再生の物語ともいえるでしょう。

また、劇中では博の父の死去が設定されていますが、実際に役を演じた志村喬氏は前年に亡くなっており、これが作品に更なる深みを与えています。寅次郎のセリフや、登場人物同士の微妙な心情のやりとりは、この映画の魅力として際立っています。

其中、寅次郎の口癖や、ロケ地として岡山県高梁市や東京都渋谷区が選ばれている点も、この作品のユニークな側面です。また、楽曲の使用も特異で、観客に親しみを持たせる要素の一つになっています。

この映画は、笑いと涙交じりの感動作であり、寅次郎シリーズの中でも特に記憶に残る1本となっています。観客は寅次郎の素直さや温かさに触れながら、彼がどのように自らの道を歩んでいくのかを見届けることができるのです。

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