男性学

男性学とは

男性学は、男性を単なる生物学的な存在としてではなく、ジェンダー化された存在として捉え、社会における様々な問題を男性性の視点から解明しようとする学問分野です。この分野は、時に「男性性研究」とも呼ばれます。

特徴

男性学の特徴として、以下の点が挙げられます。

男性をジェンダー化された存在として捉える: これまで「標準」とされてきた男性を、ジェンダーという視点から分析します。
男性性の複数性への注目: 一つの固定的な男性像ではなく、多様な男性性のあり方を認めます。
男性をめぐる権力関係への意識: 男性同士、あるいは男性と女性の間の権力構造や利害関係を考察します。

アンドロロジーとの違い

生物学的な観点から男性を研究するアンドロロジー（男性病学）は、男性の身体的な側面を扱うもので、男性学とは異なります。アンドロロジーは、女性における産婦人科学に対応する分野と言えます。

歴史と背景

男性学の萌芽は1980年代半ばに見られ始めました。当初はフェミニズムに対抗する形で、あるいはフェミニズム運動の被害者としての男性性を論じる研究も存在しました。しかし、1990年代以降、男性の育児参加やドメスティックバイオレンスなどの問題が浮上するにつれて、男性性の議論が本格化しました。

上野千鶴子氏は男性学を「女性学を経由した男性の自己省察の学問」と定義し、フェミニズムと女性学がその基盤にあることを強調しています。2000年代に入ると、ジェンダー研究は社会学の中心課題の一つとなり、男性の経験や男性性の構築過程に関する研究が盛んに行われるようになりました。

研究の発展

男性学の研究は、以下の様な視点から展開されています。

男性の経験: 働き方や育児参加など、男性が直面する具体的な経験に焦点を当てます。
構築主義的アプローチ: 男性性がどのように社会的に作られていくのかを解明します。
社会理論: 男性間のヘゲモニーのパターンを分析し、男性性の視座から社会構造を捉えます。

代表的な研究者と著作

男性学の発展に貢献した代表的な研究者と著作を以下に示します。

レイウィン・コンネル：『ジェンダーの社会理論』で、男性間のヘゲモニーを分析。
渡辺恒夫：編著『男性学の挑戦―Yの悲劇？』は、日本の学術書で初めて「男性学」を冠した。

その他にも、伊藤公雄、熊田一雄、田中俊之、多賀太など、多くの研究者が男性学の発展に貢献しています。

関連する概念

男性学を理解する上で、以下の概念も重要です。

男らしさ（Masculinity)：社会的に構築される男性の特性。
女性学: ジェンダー研究の基礎となる学問。
男性史/女性史: 歴史をジェンダーの視点から捉える研究。
メンズリブ/ウーマンリブ: それぞれ男性解放運動、女性解放運動。
マスキュリズム/フェミニズム: それぞれ男性中心主義、女性解放運動。
男性差別/女性差別: ジェンダーに基づく差別。

男性学は、社会におけるジェンダーの不平等を理解し、より公正な社会を構築するために不可欠な学問分野です。

もう一度検索