疑惑 (松本清張の短編小説)

短編小説『疑惑』について

松本清張の短編小説『疑惑』は、1956年に『サンデー毎日』の臨時増刊号に掲載された後、1957年に単行本『野盗伝奇』に収録され、光風社から刊行されました。この作品は、江戸時代の大奥を舞台に、嫉妬と疑念がもたらす悲劇をテーマにしています。

物語のあらすじ

物語は、江戸城大奥の雑事方に勤める伊田縫之助を中心に進行します。彼は美しい妻、瑠美と平穏に暮らしていましたが、瑠美の幼なじみである浜村源兵衛との関係が次第に疑念を呼び起こします。源兵衛は瑠美を喪った後、縫之助の屋敷によく訪れるようになり、その度に縫之助の心に不安が芽生えていきました。縫之助は、立派な夫でありたいという思いから、瑠美の前で嫉妬心を表に出すことができず、彼女に軽蔑されることを恐れていました。

しかし、次第に源兵衛と瑠美との親しさが明らかになり、縫之助は兄のような存在である三右衛門からの辛辣な言葉に苦しむようになります。三右衛門は、実は瑠美を源兵衛と結婚させたかったのではないかという妄想にとらわれ、縫之助の胸中はさらなる混乱を招いてゆきます。

1863年、縫之助は勤務中に源兵衛が帰ったとの情報を聞き、瑠美の元を訪れるため名目を偽って職務を放棄しました。しかし、その間に江戸城の大火事が起こり、無断で勤務を離れていたことが原因で入牢され、切腹を待つ身となります。縫之助はこの間に瑠美が源兵衛に奪われるのではないかと苦悶し、牢内で涙する日々が続きます。

入牢中、縫之助は同じ牢の浪人、倉垣平馬から脱獄を提案されます。縫之助は脱獄を果たし、自由になることができるのか、それとも運命に屈することになるのか。彼の葛藤は物語全体を通じて強く残り、最後まで観る人の心をとらえます。

テレビドラマ化

この短編小説は、1958年から1960年にかけて、三度にわたりテレビドラマとして映像化されました。

• - 1958年版: 日本テレビ系列の『山一名作劇場』で放映され、主演は春日俊二、脚色は川内康範、演出は安藤勇二が担当しました。
• - 1959年版: 毎日放送系列の『クラボウ・ミステリー 影』で放映され、主演に高桐真、森光子が出演しました。脚本は香住春吾、演出は瀬木宏康が行いました。
• - 1960年版: フジテレビ系列の『午後十時劇場』で2回に分けて放送され、月田昌也や田宮二郎がキャストに名を連ねました。

このように『疑惑』は、普遍的なテーマを持ちながらも、時代を超えて多くの人々に愛される作品となったことがわかります。読み手や視聴者に心の深い部分まで触れる物語です。

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