疾風 (初代神風型駆逐艦)

疾風（初代）

大日本帝国海軍が運用した駆逐艦「疾風」（はやて）は、初代神風型駆逐艦の12番艦として歴史に名を刻んでいます。この艦型は、当時の日本の海軍力増強期において多数が建造されました。特に本艦は、後に登場する同名の駆逐艦（二代目神風型駆逐艦「疾風」）と区別するため、「疾風 (初代)」あるいは「疾風I」と表記されるのが一般的です。この区分は、海軍史において艦艇の同名回避や識別を容易にするために用いられます。

艦歴

「疾風」の建造計画は、明治時代の半ばに進められました。製造番号第12号として指定された本艦は、明治38年（1905年）2月15日に正式に命名されました。同年5月25日には、大阪鉄工所において建造工事が開始され、船体の基礎となる起工が行われました。船体がある程度完成し、水面に浮かべられる状態になったのは、約一年後の明治39年（1906年）5月22日でした（進水）。進水からわずか二日後の5月24日には、正式に大日本帝国海軍の艦艇として「駆逐艦」に類別されました。その後、最終的な艤装や試験を経て、明治40年（1907年）3月25日に全ての建造工程が完了し、海軍に引き渡されて就役しました。

就役後の駆逐艦「疾風」は、当時の初代神風型駆逐艦各艦と同様に、主に日本近海での哨戒、警備、そして各種訓練任務に従事したと考えられます。日露戦争終結後の比較的平穏な時代に就役したため、特定の大きな海戦に参加した記録は確認されていませんが、帝国海軍の艦隊の一員として、日本の沿岸防衛や勢力圏維持に貢献しました。

除籍後の経緯

「疾風」は長年海軍の任務に就いた後、その役目を終えました。大正13年（1924年）12月1日付けで、大日本帝国海軍の艦籍から正式に除かれました。これは、艦艇の老朽化や戦略の見直しなどによって行われる措置です。除籍後も船体自体は存在していましたが、大正15年（1926年）6月16日には、艦としての機能を完全に停止し、廃船とされました。さらに、昭和3年（1928年）7月6日には、管理上の便宜からか「廃駆逐艦第5号」という仮の名称が与えられました。最終的に、「疾風」の船体は昭和5年（1930年）1月31日に売却され、その生涯を終えました。

歴代艦長

「疾風」には、竣工から除籍されるまでの期間、多くの海軍士官が駆逐艦長として着任しました。彼らは本艦の運用、乗員の指揮、そして任務遂行の責任を担いました。以下に、判明している歴代の駆逐艦長とその在任期間を列記します。

森本義寛 少佐（兼）：明治40年（1907年）3月15日 - 同年7月1日
高橋律人 大尉（兼）：明治40年（1907年）7月1日 - 同年7月12日
林直親 大尉：明治40年（1907年）7月12日 - 明治41年（1908年）11月20日
森脇栄枝 大尉：明治41年（1908年）11月20日 - 明治42年（1909年）12月1日
館明次郎 大尉（兼）：明治42年（1909年）12月1日 - 明治43年（1910年）12月1日
広瀬豊 大尉：明治43年（1910年）12月1日 - 同年12月20日
大橋朝正 少佐：明治43年（1910年）12月20日 - 明治44年（1911年）6月1日
亥角喜蔵 大尉：明治44年（1911年）6月1日 - 大正元年（1912年）12月1日
関谷光平 大尉：大正元年（1912年）12月1日 - 大正2年（1913年）9月26日
牛島潔 大尉（兼）：大正2年（1913年）9月26日 - 同年12月1日
塚本克熊 大尉：大正2年（1913年）12月1日 - 大正4年（1915年）12月13日
西村七三郎 大尉：大正4年（1915年）12月13日 - （以降の任期終了日は記録なし）
川越忠光 大尉：大正6年（1917年）10月10日 - 大正7年（1918年）12月1日
若木元次 大尉：大正7年（1918年）12月1日 - 大正8年（1919年）12月8日
鈴木義雄 大尉：大正8年（1919年）12月8日 - 大正9年（1920年）5月6日
境澄信 大尉：大正9年（1920年）5月6日 - 大正10年（1921年）3月9日
須藤平三郎 少佐：大正10年（1921年）3月9日 - 同年4月1日
実吉敏郎 大尉（兼）：大正10年（1921年）4月1日 - 同年4月30日
春日末章 大尉：大正10年（1921年）4月30日 - 同年12月1日
須藤平三郎 少佐：大正10年（1921年）12月1日 - 大正12年（1923年）8月13日
安富芳介 大尉：大正12年（1923年）8月13日 - 大正13年（1924年）2月5日
藤井音四郎 大尉：大正13年（1924年）2月5日 - （以降の任期終了日は記録なし）

これらの指揮官たちは、それぞれの時代における「疾風」の活動を支えました。「疾風（初代）」は、その約17年間の就役期間中に特定の戦功は特筆されないものの、帝国海軍の基盤を支えた駆逐艦として、日本の近代海軍史の一端を担いました。その存在は、当時の日本の造船技術や海軍の組織運営を知る上での貴重な記録と言えます。

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