病草紙

病草紙（やまいのそうし）

病草紙は、平安時代の末期から鎌倉時代初期にかけて描かれた絵巻物であり、その内容は、様々な奇病やその治療法、さらには当時の社会風俗を描いたものです。原作者は不明ですが、絵と詞書の両方が一体となって構成されています。この絵巻物は、当初は巻子本として存在していましたが、現在は場面ごとに切り離されてしまっています。現在伝わる内容は、16段からなる巻物に加え、伝来した5段分の断簡を含む21段が確認されています。その結果、国宝に指定された9段の作品は、各地の博物館に分散して保管されています。

伝来の過程

歴史的背景を考えると、この絵巻は江戸時代後期には尾張の歌人、大館高門の手に渡ったことが知られています。高門は、寛政8年（1796年）に土佐派の絵師、土佐光貞による書き入れを受けたことで、絵巻の重要性がさらに増しました。実際、光貞はこの絵巻から「白子」という図を譲り受け、その模写を作成して高門に返したと言われています。この模写は絵巻の最後に付加され、現在では東京国立博物館に所蔵されている模本も存在します。

また、病草紙には、図版が様々な場所に点在しているため、巻物の全体像や元々の構成がどのようであったのか正確にはわかっていません。近代まで伝わった15図は、さまざまな病状を象徴的に描写しており、現存の名品としては、例えば「風病の男」や「眼病の男」などが国宝として指定されています。

作風と内容

作風に関しては、『本朝画事』によると、絵は春日光長、詞は寂蓮によるものと言われますが、詳細は不明です。全体的に、卑俗な題材を扱うにもかかわらず、絵の表現には洗練されたものがあります。各図は当時の病気を細かく描写しており、医学史の貴重な資料として価値があります。また、日常生活や当時の風俗を知るための視覚情報としても役立ちます。

一例を挙げると、「歯のゆらぐ男」の図には、当時の食べ物や食器が描かれており、これにより一般市民の食生活の一端が垣間見ることができます。病草紙の図はまた、六道絵の中で「人道」を象徴するものともされていますが、制作の詳細には謎が多いです。

文化財としての指定

現在、病草紙は文化財として重要視されています。特に、京都国立博物館に所蔵されている9図は、1952年に国宝に指定され、その内容は以下の通りです：
1. 風病の男
2. 小舌のある男
3. 二形の男
4. 眼病の男
5. 歯の揺らぐ男
6. 尻に穴多き男（痔瘻の男）
7. 陰虱をうつされた男
8. 霍乱の女
9. 口臭の女

さらに、重要文化財として分類される図も存在し、これらは日本の病歴を理解する上で欠かせない資料となっています。病草紙は、平安から鎌倉時代にかけての病に関する視点を深く掘り下げるための重要な作品であり、時代背景を理解する助けとなります。

もう一度検索