瘠我慢の説

瘠我慢の説

概要

福澤諭吉が1891年に執筆した『瘠我慢の説』は、彼の思想が反映された独自の論考です。この著作は、国家と個人の関係、特に忠君愛国の感情を批評し、自由主義の影響を色濃く受けています。福澤は、国家が必要悪であるとしながら、現代において国家が必要であると認め、その中での個人の感情を探求しています。

本書は1901年に『時事新報』に掲載され、同年の5月には『丁丑公論』と共に出版されました。福澤の思想を取り巻く人物として、勝海舟と榎本武揚が登場し、彼らに対する批判が織り込まれています。いわば、駆け引きの中での個人攻撃の側面を持つこの作品は、国の情勢に大きく影響を与えました。

主要内容

冒頭で福澤は「立国は私なり、公にあらざるなり」と述べ、国家の存在意義を問います。彼は、忠君愛国の情が私情に過ぎないことを指摘し、これが自由主義の光を浴びる要因となっています。例えば、福澤は勝海舟が幕府に対して「瘠我慢」の情を持っていなかったと非難し、王政維新において幕府側が敵に降参したことを強く非難しました。「立国の要素たる瘠我慢の士風を傷（そこな）うたるの責は免かるべからず」と福澤は言い、国家が変革する中で障害となる個々の要素に着目しています。

一方、榎本武揚の行動についても福澤は批判を展開し、彼が幕府の維持のために戦ったものの最期には降参するという姿勢が「瘠我慢」の不在を如実に示していると述べました。榎本は、徳川政府を維持しようともがいたものの、結果として新政府に協力せざるを得なかった点を挙げ、福澤は彼が示した忠誠心の欠如を指摘しています。

作品の位置づけ

本書の特異な点は、勝海舟と榎本武揚に対する個人的な批判が主軸にあることです。石河幹明の序文によれば、本来、この内容は公表される予定ではなかったといいますが、写本が流出したために披露される運びとなりました。福澤が両者へ草稿を送付し、その意見を求めたことも注目に値します。勝海舟は自身が特別な存在でないとしつつ、自由な批評を求めつつ辞退する姿勢を示しました。対照的に、榎本は多忙を理由に返答をしなかったという点も興味深いところです。

結論

『瘠我慢の説』は、福澤諭吉の思想とその時代背景を理解する上で欠かせない文献です。彼の批判的な視点は、個人と国家の関係が複雑であることを示し、特に当時の日本における内戦の影響を反映しています。福澤の思想は、今なお多くの議論を巻き起こしており、現代においても価値ある考察を提供し続けています。また、この著作を通じて見えてくるのは、福澤が求めた真の国家像や個人の役割についての探求とともに、震撼するような歴史的事実が交錯している点です。

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