白日夢 (谷崎潤一郎)

白日夢

谷崎潤一郎の戯曲『白日夢』（はくじつむ）は、1926年に発表された不朽の名作で、全4幕から構成されています。この戯曲は、ある昼下がりに歯科医院で麻酔を受けている青年と、その医院で出会った美しい令嬢との心の葛藤を中心に展開されます。物語は、青年が麻酔の影響で引き起こされる白昼の夢の中で進行し、彼の幻想と現実の境界を問いかけます。

あらすじ

第1幕

物語は夏の日の歯科医院から始まります。この医院には、様々な患者が虫歯治療を受けに訪れています。作中で主に登場するのは、青白い顔をした青年と、彼が偶然出会った令嬢です。青年が他の患者の血を見て怯えていると、待合室に現れた令嬢の美しい姿に目を奪われます。彼女は葉室千枝子で、魅力にあふれた黒い単衣を身にまとっています。

ここから物語は進展し、青年は痛みと恐れの中で手術を受けることになります。麻酔が効き始め、青年は意識を失うと、令嬢もまた別の治療を受けていますが、意識を失ってしまいます。歯科ドクトルは不自然な行動をとり、昏睡状態の令嬢に対して怪しげな意図を持って接触を試みます。

第2幕

舞台は夜の大百貨店へと移ります。ここでは納涼展覧会が開かれ、青年は令嬢を待ち望んで、ベンチに座っている。やがて彼女が両親と共に現れ、次第に二人の関係が深まっていく様子が描かれます。ドクトルもまた、彼女に近づき、青年はその様子に嫉妬し、令嬢を救うために決意を固めます。

第3幕

物語の進行は一転、静かな心斎橋の通りで令嬢の屍が横たわる凄惨なシーンへと移ります。青年は警察に捕まり、惨たらしい状況説明をすることになります。彼の心の中には、欺かれたという強い感情が渦巻いており、周囲からの非難の声が響き渡ります。彼は彼女を「淫婦」と呼び、彼女の死に責任を感じる頭の中には強い怒りと悲しみが交錯しています。

第4幕

再び歯科医院に戻ります。令嬢は記憶を取り戻し、ドクトルに感謝しつつ医院を後にしますが、青年は依然として混濁とした状態にあり、周囲が次第に新たな患者で賑わっていく様子が描かれます。

登場人物

• - 歯科ドクトル: 地味で冷静な性格の医師。彼に対する謎めいた印象が物語の鍵を握ります。
• - 青年（倉橋）: 貧しい洋画家風の青年で、内向的な性格。令嬢に強く惹かれる。
• - 令嬢（葉室千枝子）: 美しさと純粋さを兼ね備えた若い女性。
• - 看護婦: 謎めいた雰囲気を持つ存在。

この戯曲は、その後、数度にわたって映画化され、いくつかの翻案が行われています。特に1964年と1981年の映画版は話題を呼び、様々な議論を引き起こしました。その影響力は今もなお色褪せることなく、文学や映像文化の重要な一部として語り継がれています。文学的な深さと共に、人間の内面に秘められた欲望や葛藤を鮮やかに描き出した『白日夢』は、谷崎作品の中でも特に印象的な存在です。

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