皇帝テオドシウスと聖アンブロシウス

皇帝テオドシウスと聖アンブロシウス

ピーテル・パウル・ルーベンスとその工房による『皇帝テオドシウスと聖アンブロシウス』は、17世紀フランドルのバロック美術を代表する作品です。この絵画は、ルーベンスが1615年から1616年にかけて、一番弟子のアンソニー・ヴァン・ダイクの助力を得て制作されました。主題は、ヤコブス・デ・ウォラギネの『黄金伝説』に収められた聖人伝に基づいており、ローマ皇帝テオドシウス1世が、テッサロニカでの虐殺事件に対する贖罪として、ミラノ大司教聖アンブロシウスから大聖堂への入堂を拒否されるという場面を描いています。

作品の背景と制作

ルーベンスは、この絵画のために準備的な素描を制作しました。しかし、実際の絵画は、そのほとんどがヴァン・ダイクによって描かれたと考えられています。この絵画は、1622年頃からルーベンスの工房に保管されていました。1626年から1628年にかけてルーベンスがアントウェルペンを離れていた時期に、銅版画家のウィレム・パネールスによって、絵画のいくつかのモチーフが素描に模写されています。

これらの素描には、「ヴァン・ダイクによるテオドシウス」という記述が見られます。これは、パネールスが本作の作者をヴァン・ダイクだと認識していたことを示唆しています。また、1640年のルーベンスの死後に作成された、ルーベンスの美術コレクションの競売目録には、「同じ画家（ヴァン・ダイク）作の聖アンブロシウス」という記述が見られます。しかしながら、この作品は非常にルーベンス的な要素が強く、ヴァン・ダイクの手を識別するのは困難です。

作品の特徴

この作品と、ヴァン・ダイクが1619年から1620年頃に制作した『皇帝テオドシウスのミラノ大聖堂入堂を拒む聖アンブロシウス』(ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵)を比較すると、ルーベンスの素描に基づいている本作では、建築の背景が目立たない一方、皇帝テオドシウスには髭が描かれている点が異なります。また、ヴァン・ダイク自身の後の作品では、槍や斧槍が描かれています。

まとめ

『皇帝テオドシウスと聖アンブロシウス』は、ルーベンスとヴァン・ダイクという二人の巨匠の合作として、バロック美術の豊かな表現力を示す作品です。この絵画は、聖書や聖人伝を題材とした歴史画の伝統の中で、ドラマチックな瞬間を捉え、宗教的な教訓と権力との葛藤を描いています。ウィーン美術史美術館に所蔵されており、現在も多くの人々を魅了しています。

参考文献

『ルーベンス　栄光のアントワープ工房と原点のイタリア』、Bunkamuraザ・ミュージアム、毎日新聞社、TBS、2013年刊行
エリカ・ラングミュア『ナショナル・ギャラリー・コンパニオン・ガイド』高橋裕子訳、National Gallery Company Limited、2004年刊行
Gian Pietro Bellori, Vite de' pittori, scultori e architecti moderni, Torino, Einaudi, 1976.
Didier Bodart, Van Dyck, Prato, Giunti, 1997
Christopher Brown, Van Dyck 1599-1641, Milano, RCS Libri, 1999
Justus Müller Hofstede, Van Dyck, Milano, Rizzoli/Skira, 2004
Stefano Zuffi, Il Barocco, Verona, Mondadori, 2004

外部リンク

美術史美術館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『皇帝テオドシウスと聖アンブロシウス』 (ドイツ語の英訳)

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