真夜中の虹 (映画)

真夜中の虹：運命に翻弄される男の物語

アキ・カウリスマキ監督による1988年のフィンランド映画『真夜中の虹』（原題：Ariel）は、閉山によって職を失った男カスリネンの波乱に満ちた人生を描いた作品です。これは、カウリスマキ監督の労働者三部作の第二作目にあたる重要な作品であり、『パラダイスの夕暮れ』に続く社会派ドラマとして高く評価されています。

物語は、北国の炭鉱閉山によって職を失ったカスリネンが、自殺した父から譲り受けたキャデラックに乗って南へ向かうことから始まります。しかし、旅の途中で強盗に遭い、全財産を奪われてしまいます。行き着いた港町では日雇い労働者として働き始めますが、生活は依然として厳しいものでした。

ある日、カスリネンは駐車監視員のイルメリと出会い、彼女の優しさに触れます。イルメリはシングルマザーであり、複数のアルバイトを掛け持ちしながら息子リキを育てていました。カスリネンはイルメリと共に過ごす時間を持ちますが、安定した仕事にはなかなか巡り合えません。

安い宿泊所を追い出されたカスリネンは、やむを得ず父の車を売却します。しかし、その後、以前強盗に遭った犯人を見かけ、その際に起こした事件によって、強盗殺人未遂、凶器所持、公務執行妨害の罪で1年11ヶ月の懲役刑を宣告されてしまいます。

刑務所では、イルメリとリキが面会に訪れ、出所後に結婚することを約束します。しかし、看守とのトラブルから懲罰房に入れられるなど、刑務所生活も決して平穏ではありませんでした。

その後、イルメリとリキからの差し入れの中に金鋸を見つけ、同室のミッコネンと共に脱獄に成功します。売却した車を奪還し、イルメリを迎えにいきます。そして、二人は結婚式を挙げます。

自由を手にしたものの、カスリネンとミッコネンは国外逃亡のため、闇の業者に偽造パスポートを依頼します。資金を得るために銀行強盗を行い、その際にトラブルが発生、ミッコネンは業者の手にかかって命を落としてしまいます。

ミッコネンを埋葬した後、カスリネンはイルメリとリキと共に、貨物船アリエル号に乗り込み、メキシコを目指して航海に出ます。このラストシーンは、彼らの不確かな未来を示唆しながらも、かすかな希望を感じさせる、カウリスマキ監督らしい演出となっています。

『真夜中の虹』は、フィンランドの厳しい社会状況と、そこで生きる人々の姿をリアリティをもって描き出しています。カスリネンの物語は、絶望的な状況の中でも、人間味あふれる生き様と、ささやかな希望を追い求める姿を示しています。カウリスマキ監督独特の静謐な演出と、ユーモラスなタッチが混在する本作は、観る者の心に深く刻まれる、忘れがたい名作です。

映画全体を通して、カウリスマキ監督特有の抑制された演出と、静かなユーモアが感じられます。登場人物たちの感情は、言葉ではなく、表情や仕草から伝わってくるのが印象的です。また、フィンランドの荒涼とした風景も、物語に重みを与えています。一見淡々と描かれているように見えますが、その奥には、人間の強さと弱さ、そして社会への鋭い批判が込められています。

『真夜中の虹』は、単なる犯罪ドラマではなく、社会構造の矛盾や人間の存在意義を問いかける、深く考えさせられる作品です。観終わった後、しばらく余韻に浸り、自身の生き方について考えさせられることでしょう。

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