真実の10メートル手前

『真実の10メートル手前』

概要

『真実の10メートル手前』は、日本の作家・米澤穂信によって書かれた推理小説の短編集です。本書は、2015年12月に東京創元社から出版され、翌年には多くのミステリーベストランキングで高い評価を受けました。この作品集には、太刀洗万智というキャラクターが主人公の短編が収められており、彼女の記者としての活動を通じたさまざまな事件が描かれています。

特徴

本作は、「ベルーフ」シリーズの一楽しみであり、『王とサーカス』のテーマとしても取り上げられた「報道のあり方」が色濃く反映されています。表題作の「真実の10メートル手前」は、万智が新聞記者だった時代のエピソードで、当初は長編小説『王とサーカス』の一部として構想されていましたが、結果的に短編として独立しました。これにより、彼女のキャラクターがより深く描かれ、作品が一つの短編集として成立しました。

短編の内容

本書には、表題作を含む6篇の短編が収められています。例えば、「真実の10メートル手前」では、経営破綻した企業の社長とその妹の失踪事件を追う万智の姿が描かれ、その行動が記者としての倫理観や責任をどのように試されるのかが語られます。

また、「正義漢」では人身事故を題材にした記者の視点から、取材と報道の現場の生々しさが浮き彫りになります。万智の同僚や仲間たちとのやり取りを通じて、彼女の人間性や職業に対する情熱も垣間見えます。

さらに、「恋累心中」では、高校生の心中事件を通じて、若者の心の葛藤や社会に対するプレッシャーが描かれており、事件の背景にある人間ドラマが丁寧に描写されています。

逆に、「名を刻む死」や「ナイフを失われた思い出の中に」では、孤独や死というテーマが取り上げられ、社会の中で浮かび上がるさまざまな人間模様が展開されます。

最後の「綱渡りの成功例」では、災害がもたらす人々の絆や助け合いといった人間の美徳が描かれています。このように、各短編は異なる角度から人間の本質や現代社会が抱える問題を浮き彫りにするものとなっています。

登場人物

太刀洗万智が本作の中心となるキャラクターで、彼女の視点から語られる物語は、マスコミの役割や人間模様のリアルな部分を浮き彫りにしています。他の登場人物たちも、彼女の取材を通じて時折登場し、それぞれのエピソードに深みを加える重要な役割を果たしています。

書誌情報

本作は2015年12月25日に出版社から刊行され、2018年には創元推理文庫として再版されています。米澤穂信の独特な視点と緻密なストーリーテリングが生み出す作品群は、ミステリーファンのみならず、多くの読者に感動と考察の材料を提供します。作品を通じて、報道の役割や真実とは何かを考えさせられる作品集です。

もう一度検索