眼胞

眼胞（Optic Vesicles）

眼胞（がんぽう）は、脊椎動物の発生過程における極めて初期の段階で形成される、眼の原基となる一対の構造体を指します。この時期は、胚が基本的な体の形を作り上げていく形態形成の重要な局面にあたります。眼胞の出現は、将来の視覚器である眼の形成が始まる最初の兆候と言えます。

発生の初期段階

眼胞は、発生中の胚において、脳の最も前方にあたる「前脳」の側壁から発達を開始します。具体的には、前脳の側面が外側へ向かって膨らみ出すことによって形成されます。この膨らみは、神経管と呼ばれる将来の中枢神経系を形成する管状構造の前方部分が閉鎖していく過程とほぼ同時期に生じ始め、神経管の閉鎖が完了する頃には、比較的はっきりとした袋状の構造、すなわち眼胞として認識できるようになります。この段階の眼胞は、前脳の空洞（将来の脳室の一部）と繋がった一対の風船のような形をしています。

形態変化と分化

形成された眼胞は、その後さらに発達を続けます。前脳から突出した眼胞は、やがて頭部の側面へと大きく伸びていきます。この突出した構造は、発生が進むにつれて形態を変化させ、大きく二つの部分に分化します。一つは、眼胞を神経管（将来の脳）と繋ぐ、比較的細い茎状の部分です。この部分は「眼柄（optic stalk）」となります。もう一つは、眼胞の先端部分が大きく窪むように陥入し、二層構造を持つ「眼杯（optic cup）」を形成する部分です。

この眼杯の形成は、その後の眼の各組織の分化において非常に重要なステップです。眼杯は、内側の層と外側の層からなる二重の構造を持ちます。眼杯が形成される際、その直上にある体表の組織、特に表皮（外胚葉）が厚くなり、将来の水晶体の原基（lens placode）が誘導されます。この水晶体の形成は、眼杯からのシグナル伝達によって引き起こされる、組織間相互作用の典型的な例として知られています。

眼胞由来の組織

眼胞から分化した眼杯は、眼の主要な構成要素を形成する細胞群へとさらに分化していきます。具体的には、眼杯の内側の層は、光を感じ取る視細胞を含む神経細胞層である「網膜（retina）」へと発達します。一方、眼杯の外側の層は、「網膜色素上皮（retinal pigment epithelium）」となります。また、眼杯の前端部、開口部の縁の部分からは、眼に入る光量を調節する「虹彩（iris）」などが形成されます。

このように、眼胞は発生初期の単純な袋状構造から、形態を大きく変化させ、眼杯と眼柄に分化し、最終的には網膜、色素上皮、虹彩といった視覚機能に不可欠な組織を産み出す、眼発生の最初の、そして最も基礎的なステップを担う構造なのです。その適切な形成と発達は、健全な視覚系の確立に欠かせません。

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