矢橋

矢橋（やばせ）

滋賀県草津市に位置する矢橋は、琵琶湖の南岸に突き出した地域にある集落で、かつては琵琶湖水運の重要な港町として栄えました。特に、矢橋から対岸の石場へと船で渡る航路は、東海道の近道として利用され、多くの人々が行き交いました。

地理

矢橋は、琵琶湖南部の伯母川三角州と狼川三角州の間に位置し、湖岸が最も深く入り込んだ場所にあります。この地形が天然の良港となり、古くから水運の拠点として発展しました。近世には、東海道から分岐する矢橋道の終着点として、大津と草津を結ぶ航路を短縮できる利便性から、周辺地域と比べても多くの船や利用客で賑わいました。

歴史

矢橋の歴史は古く、矢橋湖底遺跡から縄文土器が出土していることから、集落の成立は縄文時代にまで遡ると考えられています。万葉集にもその名が詠まれており、古代にはすでに港町としての機能を持っていたことが伺えます。かつては「矢走」「矢馳」「八橋」「箭橋」などとも表記されました。中世には、志那、山田と並ぶ有力な港として台頭し、要港警備のため矢橋氏によって矢橋城も築かれました。近世には、「矢橋帰帆」が歌川広重の浮世絵「近江八景」や「伊勢参宮名所図会」に描かれるなど、全国的にその名を知られるようになりました。しかし、明治時代に入り、蒸気船や鉄道といった新たな交通手段が登場すると、琵琶湖水運は衰退し、矢橋港もかつての賑わいを失いました。

昭和時代に入り、琵琶湖総合開発事業の一環として、琵琶湖沖に人工島の矢橋帰帆島が建設され、下水処理施設やレクリエーション施設が整備されました。かつての矢橋港の跡地は公園となり、石積と1846年（弘化3年）に建立された常夜灯が当時の面影を伝えています。近年では、矢橋帰帆島と湖岸との間の水路で赤潮やアオコが発生しやすく、環境問題として指摘されています。

人口

令和2年4月末現在、矢橋には2,373世帯、5,832人が居住しています。

周辺施設

矢橋には、矢橋帰帆島をはじめ、湖南中部浄化センター、矢橋帰帆島公園（プール、テニスコート、子供広場、キャンプ場、ゲートボール場など）、浄水場、滋賀県立水環境科学館、淡海医療センター、矢橋町立総合グランドといった様々な施設があります。また、鞭崎八幡宮や草津市立老上中学校、草津市立老上小学校、草津市立老上西小学校、草津市立老上こども園、草津市立矢橋ふたばこども園などの教育機関も充実しています。

文学

矢橋は、万葉集に

近江のや 矢橋の小竹を 矢はがずて まことありえむや 恋しきものを

と詠まれているほか、『今昔物語集』や能曲「兼平」、上方落語の名作「矢橋船」にも登場します。

ことわざ

「もののふの矢橋の船は速かれど急がば廻れ瀬田の長橋」ということわざは、矢橋の船が速いことを認めた上で、急ぐときには安全な瀬田の長橋を渡る方が良い、という意味を伝えています。

文化財

矢橋には、鞭崎八幡宮の表門（重要文化財）や石津寺の本堂（重要文化財）といった歴史的な文化財のほか、矢橋港跡に残る常夜灯と石積突堤、近松門左衛門作の人形浄瑠璃『冥途の飛脚』で知られる遊女梅川が晩年を過ごした場所などがあります。

おもな出身者

プロ野球選手の松田宣浩が、矢橋の出身者として知られています。

脚注

[参考文献]
滋賀県教育委員会事務局文化財保護課『街道でめぐる滋賀の歴史遺産』サンライズ出版、2019年10月25日。

関連項目

近江八景
* 瀟湘八景

外部リンク

民話でたどる滋賀の風景／矢橋港跡・矢橋帰帆島

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