矢田俊文 (歴史学者)

矢田 俊文

矢田 俊文（やた としふみ）氏は、1954年1月生まれの日本の歴史学者です。特に日本中世史を専門とし、長年にわたり新潟大学で教鞭を執り、現在は同大学の名誉教授を務めています。

経歴

鳥取県に生まれた矢田氏は、大阪市立大学文学部で歴史学を学び、1976年に卒業しました。さらに大学院へと進み、より専門的な研究を深め、1982年6月に大阪市立大学大学院博士課程を単位取得の上、満期退学しました。

研究者としてのキャリアは、1987年に新潟大学人文学部の助教授に就任したことから始まります。その後、教育と研究における実績が認められ、1996年には教授に昇任しました。この年、1996年には、大阪市立大学より「日本中世戦国期権力構造の研究」というテーマで博士（文学）の学位を取得しています。

新潟大学で多くの学生や研究者を指導し、歴史学の発展に貢献した後、2019年3月に大学を退職しました。翌4月には、その功績を称えられ、新潟大学名誉教授の称号を授与されました。

研究と活動

矢田氏の研究は、主に二つの大きな柱から成り立っています。一つは、日本中世の戦国時代、特に越後国（現在の新潟県）を拠点とした上杉氏を中心とした戦国大名の権力構造や地域支配に関する研究です。史料に基づいた緻密な分析を通じて、戦国期社会の実像に迫る多くの成果を発表しています。

もう一つの重要な研究テーマは、歴史学の視点からの地震研究です。過去の文献や史料から地震に関する記述を丹念に読み解き、歴史的な大地震が当時の社会や人々の生活、経済活動、特に流通に与えた影響などを明らかにしました。これは、自然現象としての地震を歴史的な文脈で捉え直す、学際的な研究の重要な一例です。

これらの学術的な研究活動は、実践的な貢献にも結びついています。2004年に発生した新潟県中越地震や、2007年の新潟県中越沖地震という、新潟県を襲った二つの大きな地震に際して、矢田氏は被災地に赴き、地震によって危機に瀕した貴重な歴史資料や文化遺産の救出活動に積極的に取り組みました。この経験は、災害発生時における文化財保護の重要性を広く知らしめることにも繋がりました。

また、中越地震を受けて2006年に新潟大学内に設立された災害復興科学センターでは、アーカイブズ（歴史資料）分野の代表を務め、災害時の史料保全や活用に関する体制構築にも尽力しました。

学外では、新潟史学会の会長を歴任するなど、新潟県の地域史研究の振興や、研究者間の交流にも貢献しています。

主な著作

矢田氏の主な著作としては、専門分野における研究成果や、歴史地震学に関する普及啓発書など、多岐にわたります。

『日本中世戦国期権力構造の研究』（塙書房、1998年）
『文化を育てたい ― 矢田清子人と仕事』（高志書院、2002年）
『日本中世戦国期の地域と民衆』（清文堂出版、2002年）
『新潟県中越地震文化遺産を救え』（高志書院、2005年）
『上杉謙信―政虎一世中忘失すべからず候』（ミネルヴァ書房、2005年）
『戦国期の権力と文書』（高志書院、2004年）
『中世の巨大地震』（吉川弘文館、2008年）
『直江兼続』（高志書院、2009年）
* 『地震と中世の流通』（高志書院、2010年）

これらの著作は、戦国史研究や歴史地震学研究における必読文献として、多くの研究者に参照されています。退職後も名誉教授として、その豊かな学識と経験は日本の歴史学界において重要な位置を占めています。

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