短編集 (太田裕美のアルバム)

短編集

『短編集』（たんぺんしゅう）は、日本の歌手、太田裕美によって1975年6月21日に世に送り出された、彼女にとって通算2枚目となるスタジオ・アルバムです。CBSソニーからリリースされたこの作品は、デビュー間もない彼女の瑞々しい魅力と、当時の日本の音楽シーンを牽引していた一流のクリエイターたちの才能が見事に融合した、初期キャリアにおける重要な一枚と位置付けられています。

アルバムの内容構成

本作には、同年にリリースされ多くの人々に親しまれたセカンド・シングル「たんぽぽ」をはじめ、個性豊かな全12曲が収められています。アナログ盤のA面にあたる前半には、「白い封筒」「太陽がいっぱい」「やさしい翼」「ねぇ……!」「たんぽぽ」「回転木馬」の6曲が配され、一方のB面には「すれちがい」「妹」「レモン・ティー」「ピアニシモ・フォルテ」「紙ひこうき」「青い封筒」という、また異なる雰囲気を持つ6曲が並びます。アルバム全体を通して、まるで短編小説集を読むかのように、それぞれの楽曲が独立した物語を紡ぎながらも、どこか通底する感性で結ばれているような構成となっています。

制作を支えた人々

『短編集』の音楽性と世界観は、当時の日本のポップス界を代表する強力な制作陣によって創り上げられました。アルバム全体の構成を練り上げ、そして全曲の作詞を手掛けたのは、稀代の詩人にして作詞家である松本隆です（ただし、「ねぇ……!」に関しては太田裕美との共作詞）。彼の紡ぎ出す言葉は、多感な時期の複雑な心の機微や、日常の中に潜む切ない情景を鮮やかに描き出しており、アルバムタイトルの「短編集」というコンセプトを見事に具現化しています。

楽曲の作曲については、特記されているもの以外は筒美京平が担当しています。彼の生み出すキャッチーでありながら叙情性を兼ね備えたメロディは、太田裕美の透明感あふれる歌声を最大限に引き出しています。また、編曲は全曲を萩田光雄が手掛けており、楽曲それぞれの持ち味を活かした繊細かつダイナミックなアレンジが光ります。萩田光雄は作曲家としても参加しており、「やさしい翼」と「ピアニシモ・フォルテ」の2曲を提供しています。さらに、歌手である太田裕美自身も、「ねぇ……!」という楽曲で松本隆との共作詞および作曲を担当しており、単なる歌い手にとどまらない表現者としての才能の片鱗を見せています。

収録曲について

アルバムの中心的な楽曲の一つである「たんぽぽ」は、前述の通りセカンド・シングルとして広く認知されている楽曲です。また、「太陽がいっぱい」という楽曲タイトルは、アラン・ドロン主演で有名なルネ・クレマン監督の1960年の同名映画を想起させますが、楽曲の内容が映画と直接的に関連しているかについては言及されていません。萩田光雄が作曲した「やさしい翼」や「ピアニシモ・フォルテ」、そして太田裕美自らが作曲した「ねぇ……!」などは、アルバム全体の音楽的なバラエティを豊かにし、様々な表情をリスナーに届けています。

コンセプトと雰囲気

このアルバムのコンセプトは、オリジナルLP盤に巻かれた帯に記されたキャッチコピー「愛の歓びと悲しみを綴る…」によって端的に示されています。松本隆の歌詞が描き出すのは、青春期の淡い恋心や失われた愛、日々の生活の中での小さな発見や喪失といった、普遍的ながらも個人的な「愛」とそれに伴う「悲しみ」の物語です。筒美京平や萩田光雄のメロディとアレンジが、これらの感情に寄り添い、太田裕美の純粋な歌声を通して聴く者の心に深く響きます。アルバム全体を聴き終えた時、まるで一冊の優れた短編集を読み終えたかのような、清々しくもどこか切ない余韻が残る作品です。

その他の特徴

特筆すべき点として、本アルバムの歌詞カードは、作詞を手掛けた松本隆の自筆によって制作されたとされています。これは、単なる情報伝達のツールとしてだけでなく、作品の一部としてのアート性や、作り手の息遣いが感じられる貴重な要素と言えるでしょう。アルバムタイトル『短編集』というコンセプトを、こうした細部にまで行き届かせることで、作品全体のパーソナルで丁寧な作り込みが感じられます。

まとめ

『短編集』は、太田裕美が表現者として歩み始めた初期の重要なマイルストーンとなるアルバムです。松本隆、筒美京平、萩田光雄という、日本のポップス史に名を刻むクリエイターたちとの密な連携から生まれた本作は、その質の高い楽曲群と、青春の光と影を描き出すコンセプトによって、多くのリスナーに愛され続けています。太田裕美の透明感あふれる歌声と、珠玉の言葉とメロディ、そして繊細なアレンジが織りなす世界は、発表から時を経ても色褪せることなく、今なお多くの音楽ファンを魅了する名盤と言えるでしょう。

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