石井流

石井流（いしい-りゅう）

石井流は、日本の伝統的な能楽における大鼓の一流儀です。この流派の成り立ちは安土桃山時代まで遡り、初代石井庄左衛門滋長が名人樋口久左衛門から学び始めたことに起源を持ちます。彼は京で手猿楽役者として知られ、この技術を基に自身の流派を築き上げました。

江戸時代には、石井流は京都に根を下ろし、石井仁兵衛家が加賀藩、弥市家が尾張藩から扶持を受けることとなり、その名声を高めました。この時期、流派は地域に密着し、広がりを見せていきます。明治時代に入ると、十世石井一斎が非常に重要な人物となり、津村又喜（葛野流）や清水然知（高安流）と共に「大鼓方の三名人」として広く知られるようになります。ただし、彼が後嗣を残さなかったため、流派の宗家は途絶えてしまいます。

その後、谷口正喜ら主に門弟による活動が続き、谷口家が宗家の代理役を果たしつつ、流派の伝承を守る努力をしてきました。そして、石井仁兵衛（景喜）が十二世宗家に就任し、石井流の系譜が続いていくこととなります。

現在、能楽協会に名前を連ねる石井流の演者は10名弱にのぼりますが、彼らは主に京都や名古屋を拠点として精力的に活動しています。石井流の演奏スタイルには特筆すべき特徴があります。例えば、調緒はゆるくかけることが一般的で、使用する革はあまり焙じません。このため、音色が柔らかく、聴く者に優しさを伝えるような響きを持っています。

また、石井流の演者は原則として指皮をはめないため、演奏における音の種類を四つすべて打ち分けることが求められます。さらに、ここで使われる替えの手組みは非常に多岐に渡り、その複雑さも特徴の一部です。

石井流は、その長い歴史と独自の技術に裏打ちされた演奏法により、日本の伝統芸能の中で特別な位置を占めています。今後も、伝統を継承しながら新しいアプローチを模索することで、さらなる発展が期待されている流派です。

参考文献

• - 『能楽全書』（東京創元社）
• - 『能・狂言事典』（平凡社）
• - 『岩波講座 能・狂言』（岩波書店）

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