石弓

石弓（いしゆみ）

石弓という言葉は、日本の城郭をはじめとする防御施設において、敵の攻撃を防ぐために用いられた仕掛けの一種を指す場合と、現代において手持ち式の機械弓である「弩（ど）」や西洋の「クロスボウ」を指す場合があり、文脈によってその意味が異なります。

本来、歴史的な防御装置としての「石弓」は、個人的な武器としての弓や弩とは全く性質が異なるものです。これは、城壁や崖の上といった戦略的に重要な場所に予め設置される、いわば半固定式の大型兵器でした。その仕組みは、強靭な綱などを用いて大きな石や木材を城壁や崖の上に準備しておき、敵が城に接近したり、あるいは攻め上がろうとした際に、その綱を切り離すことで、重力によってこれらの物体を敵の頭上や密集している場所に落下させて損害を与えることを目的としていました。

この装置は、個々の兵士が持ち運んで使用するものではなく、城全体の防御システムの一部として機能しました。そのため、その規模は個人用の弓とは比較にならないほど大きく、設置された場所から移動させて使うことは想定されていませんでした。このような性格から、「投石器」や「射ち出し機」といった名称で呼ばれることもありました。これらの呼称は、石や他の物体を投げ落とす、あるいは射ち出すかのように使うその機能性をよく表しています。

戦国時代などの攻城戦においては、攻撃側は梯子をかけて城壁を乗り越えたり、城門を破ろうとしたり、あるいは壁面に取り付いたりといった接近戦を挑むことが多く、防御側にとって城壁の直下や取り付けようとする敵兵に対して効果的に打撃を与える手段は極めて重要でした。「石弓」は、そうした状況下で、上方から直接的な物理的ダメージを与える有効な手段の一つとして機能したと考えられます。

ただし、現代の辞書や歴史関連の文献などでは、この本来の防御装置としての意味合いに加え、手で持って扱う機械的な弓である「弩（ど）」や、それに類する西洋の「クロスボウ」を指して「石弓」と呼ぶ例が多く見られます。また、弩やクロスボウを装備した兵士を「石弓兵」と称する用法も一般的です。これは、おそらく形状の一部が弓に似ていることや、石を飛ばす、あるいは矢を発射するという共通の機能（本来の石弓は石や木材を落とす仕掛けですが、投石器としての側面もあります）から連想されたものと考えられます。

そのため、「石弓」という言葉を聞いた際には、それが城の防御設備としての仕掛けを指しているのか、それとも手持ちの弩やクロスボウを指しているのかを、文脈から判断する必要があります。歴史的な攻城戦の文脈であれば防御装置、現代の武具や競技の文脈であれば弩やクロスボウを指している可能性が高いでしょう。

関連する防御設備としては、城壁から突き出した部分に設けられ、直下の敵を攻撃するための「石落とし」や「出し狭間」、壁面に開けられた弓や鉄砲で攻撃するための窓である「狭間」などがあります。また、城を取り囲む敵に石を投げつける他の方法としては、「印地（いんじ）」と呼ばれる石投げ集団によるものもありました。

このように、「石弓」は一つの言葉でありながら、歴史的な防御装置と、現代でいう弩・クロスボウという、全く異なるものを指し得る多義的な言葉と言えます。

関連項目：石落とし、出し狭間、狭間、投石器、印地、山城、罠、攻城戦

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