石油備蓄

石油備蓄：エネルギー安全保障の要

石油は現代社会の基盤を支える重要なエネルギー源です。しかし、戦争や自然災害、地政学的リスクなどにより、石油の供給が不安定になる可能性があります。そこで、急激な価格変動や供給不足に備えるため、石油を備蓄しておくことが不可欠となります。これが石油備蓄です。

石油備蓄は、国家安全保障の観点から極めて重要な役割を果たします。国家は、戦略的な石油備蓄を行うことで、エネルギー供給の安定性を確保し、経済社会への影響を最小限に抑えることができます。一方、民間企業も、事業継続性を確保するため、石油備蓄をリスク管理の一環として行う場合があります。

世界の石油備蓄事情

アジア

中国は、2000年代以降、石油輸入量の急増に伴い、戦略的な石油備蓄を本格化させています。大規模な備蓄基地の建設を進め、エネルギー安全保障の強化を図っています。日本、韓国との石油共同備蓄についても検討されており、エネルギー安定供給に向けた国際協力の重要性が示されています。東南アジア諸国では、シンガポールが90日分、タイとベトナムが30日分の石油備蓄に関する法律を整備していますが、カンボジアやミャンマーなど、備蓄に関する法律がない国もあります。

北アメリカ

アメリカ合衆国は、世界最大の石油備蓄国です。メキシコ湾岸に巨大な備蓄基地を保有し、国家戦略として石油備蓄を管理しています。計画備蓄量は60日分の輸入量に相当し、世界最大の備蓄量を誇ります。アメリカは世界最大のエネルギー生産国でもありますが、価格安定化や緊急時の対応として、備蓄の増減を行います。原油価格の暴落時や、サウジアラビアの石油施設攻撃など、国際情勢の不安定化に対応するため、備蓄の放出を行うこともあります。

日本の石油備蓄

日本は、民間備蓄、国家備蓄、産油国共同備蓄の3つの方式を組み合わせた石油備蓄体制を構築しています。

民間備蓄: 民間企業が石油流通の過程で、在庫を多めに保有する方法です。
国家備蓄: 政府が戦略的に備蓄基地を建設し、原油を保管する方法です。経済産業大臣の指示がない限り、出し入れは行われません。
* 産油国共同備蓄: 政府の支援の下、産油国の国営石油会社に日本の民間原油タンクを貸与し、平時は中継・備蓄基地として利用し、緊急時には国内向けに優先供給する仕組みです。

日本の石油備蓄量は、国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄を合わせ、2021年9月末時点で約7,425万キロリットル（約224日分）でした。備蓄基地の建設にあたっては、NIMBY（Not In My Back Yard）問題、つまり住民からの反対運動が起こることが多く、工場地帯や僻地などに建設される傾向があります。また、陸上タンクに加え、洋上タンカーや地下岩盤などを活用した備蓄方法も採用されています。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構が、国家備蓄基地の管理を担っています。

石油備蓄の放出事例

東日本大震災やサウジアラビアの石油施設攻撃などの際には、緊急対応として、民間備蓄の放出や、アメリカによる戦略石油備蓄の放出が行われました。日本も国際協調の下、必要に応じて石油備蓄の放出を行う方針です。

まとめ

石油備蓄は、エネルギー安全保障の観点から、国家や企業にとって極めて重要な役割を担っています。世界各国は、それぞれの状況に応じて、多様な形態の石油備蓄を整備し、エネルギー供給の安定確保に努めています。今後も、国際情勢の変化やエネルギー需給の変動に柔軟に対応できる備蓄体制の構築が求められます。

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