石田忠彦

石田忠彦氏（いしだ ただひこ）は、1938年11月25日に佐賀県に生まれた日本の近代文学研究者です。長年にわたり鹿児島大学で教育・研究活動に携わり、同大学の名誉教授の称号を得ています。特に坪内逍遥に関する研究において、日本の近代文学史における重要な業績を残しています。

その学問の礎は、九州大学法文学部国文科で築かれました。1961年に同大学を卒業後、研究者としての道を歩み始め、活水女子大学の助教授などを経て、1983年には鹿児島大学法文学部教授に就任しました。鹿児島大学では、教育・研究活動の中心を担うとともに、法文学部長という要職も務め、学部運営にも貢献しました。研究においては、日本の近代小説の理論形成に大きな影響を与えた坪内逍遥に着目し、その深い考察は1986年に「坪内逍遥小説理論の研究」として実を結び、九州大学から文学博士号が授与されました。

2004年に鹿児島大学を定年退官する際には、これまでの教育・研究への貢献が称えられ、名誉教授の称号が贈られました。退官後も研究活動は精力的に続けられており、また、かごしま近代文学館のアドバイザーを務めるなど、地域の文学・文化の振興にも積極的に関わっています。

石田氏の研究は、日本の近代文学、特に明治期における文学のあり方や思想の展開に光を当てています。博士論文のテーマである坪内逍遥は、近代文学の黎明期において、演劇論や小説理論を通じて文学の新しい可能性を追求した人物であり、石田氏の緻密な研究は、逍遥の文学理論の本質を深く掘り下げています。

その研究成果は、数多くの著書として出版されています。代表的なものとしては、博士論文を基にした『坪内逍遥研究』（九州大学出版会、1988年）があります。この著書は、坪内逍遥研究における重要な文献の一つとされています。また、地域文学への関心も深く、『かごしまで読む徒然草』（高城書房、2010年）では古典文学を鹿児島の視点から読み解く試みを行い、『愛を追う漱石』（双文社出版、2011年）では、夏目漱石の作品世界における人間関係や感情の機微に迫っています。

著書の執筆だけでなく、関連分野の書籍の編纂にも貢献しています。例えば、『ふるさと文学館』シリーズの第52・53巻「鹿児島」（ぎょうせい、1994年）では、鹿児島の文学を広く紹介する役割を果たしました。また、『鹿児島・文学の舞台』（花書院、1999年）では、地域と文学の関わりを深く掘り下げています。さらに、原武哲氏、海老井英次氏と共に『夏目漱石周辺人物事典』（笠間書院、2014年）を、大野達郎氏と共に『林芙美子小品集』（南日本新聞開発センター、2015年）を編纂するなど、共同での研究成果発表も多数あります。

発表された論文も多岐にわたり、その内容は日本の近代文学研究の進展に寄与しています。石田氏の論文一覧は、科学研究費助成事業データベース（KAKEN）などの外部データベースで確認することができます。

石田忠彦氏は、日本の近代文学研究において特に坪内逍遥研究で重要な業績を上げるとともに、鹿児島大学での長年の教育・研究活動を通じて多くの後進を育てました。退官後も名誉教授として、また地域の文学館アドバイザーとして、文学研究の発展と地域文化の振興に貢献し続けています。

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