碇美穂子

碇 穂（旧登録名：碇 美穂子）

東京都出身の元女子プロ野球選手、指導者、そして監督。1987年7月20日にこの世に生を受けた。現役時代は攻守にわたる活躍を見せた捕手として知られ、引退後は指導者として後進の育成に力を注いでいる。2021年以降は、活動名を「碇 穂（いかり みのる）」として新たな一歩を踏み出している。また、プロフェッショナルな舞台から退いた後にトランスジェンダーであることを公表し、自身の経験を通じて社会における性多様性への理解促進にも貢献している人物である。

選手として築いたキャリア

碇穂の野球キャリアは、早い段階からその才能の片鱗を見せていた。高校卒業後は、流通経済大学に進学する傍ら、女子硬式野球の強豪チーム「侍」に所属し、チームの主将として統率力を発揮した。国際舞台での経験も豊富で、2004年に開催された記念すべき第1回IBAF女子ワールドカップにおいては、日本のナショナルチームの一員として世界の強豪と渡り合った。この経験は、その後の選手生活における大きな財産となったことだろう。

2009年、日本女子プロ野球機構の発足という歴史的な瞬間に立ち会い、第1回の合同トライアウトに挑戦。その実力が認められ、見事に合格を勝ち取った。同年末に行われたドラフト会議では、京都アストドリームスからの指名を受け、プロ野球選手としての輝かしい道を歩み始めた。

プロの世界では、捕手としてその存在感を発揮した。最大の武器は、まさに「矢のような」と形容されるほど正確で力強い送球であり、盗塁を試みる相手チームのランナーを幾度となく阻止した。また、試合の流れを読み、投手陣の能力を引き出す巧みなリードも高く評価された。チームにとって不可欠な司令塔として、投手陣からの信頼も厚かった。

所属チームは複数にわたり、2012年には新設された大阪ブレイビーハニーズへ移籍。翌2013年には、機構のチーム再編という大きな動きの中で、新規チームであるノースレイアの一員となった。ノースレイア時代には、選手としてプレーを続けると同時に、選手兼任コーチという新たな役割も担った。これにより、現役アスリートとしての視点と、チームを指導する立場の視点の両方を持ち合わせる貴重な経験を積んだ。

プロ選手としての公式戦でのプレーは、2014年シーズンをもって幕を閉じた。現役生活にピリオドを打った碇穂は、新たなステージへと進むことを決意した。プロ入りから大阪時代までは背番号「2」を背負い、ノースレイア時代は「28」に変更していた。

指導者としての情熱と新たな挑戦

現役引退後、碇穂は女子野球への深い愛情と、培ってきた知識・経験を活かすべく、指導者の道へ本格的に踏み出した。2015年には、かつて自身が所属した兵庫スイングスマイリーズが改称した兵庫ディオーネの監督に就任。プロチームの指揮官として、選手たちを率い、勝利を目指す采配を振るった。

2020年には、指導者としてのキャリアにおいて、特に注目すべき一歩を踏み出した。愛知県一宮市を拠点に、アマチュアの女子硬式野球クラブチーム「東海NEXUS」を自ら立ち上げたのである。チームの創設者として、そして初代監督として、選手の育成、チーム運営、地域との連携など、多岐にわたる活動に奔走した。東海NEXUSでは、創設当初から変わらず背番号「50」を着用している。そして2024年からは、よりチーム全体の強化と女子野球界全体への貢献を見据え、総監督という立場でチームを支えている。

人物像とトランスジェンダー公表について

プロ野球選手という表舞台から退き、一般企業での勤務を経て、碇穂は自身のアイデンティティに関わる重要な事実を公表した。2021年、自身がトランスジェンダーであることを明らかにしたのである。公表の時点では、戸籍上の性別を変更するための手術は受けていなかったため、法的には女性として登録されていた。しかし、日々の生活は男性として送っていることを率直に語った。

この公表は、野球界のみならず、社会全体に性自認や多様性について考えるきっかけを提供した。自身のプライベートな一面を明かすことは、計り知れない勇気を要する行動であっただろう。それでも、自身の経験を包み隠さず話すことで、同じような状況にある人々や、性の多様性について関心を持つ人々に対して、大きな示唆と共感をもたらした。

碇穂は、選手として、指導者として、女子野球の発展に尽力してきた功績に加え、自身の生き方を通じて、社会における多様な性のあり方や、それぞれの個性を尊重することの重要性を静かに、しかし力強く発信している。その姿勢は、多くの人々に感銘を与えている。

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