社会医療法人

社会医療法人とは

社会医療法人とは、2006年の医療法改正によって創設された、日本の医療法人制度における法人区分の一つです。主に公的医療機関が担ってきた公益性の高い医療活動を、民間でありながら担う医療法人として位置づけられています。地域医療において特に重要な役割を果たす主体として、一般の医療法人とは区別され、税法上の優遇措置も設けられています。

社会医療法人の設立背景

従来、地方自治体が運営する公的医療機関は、救急医療、災害医療、へき地医療など、地域社会に不可欠な「公益性の高い医療」を提供してきました。しかし、公営企業としての医療機関は、人件費や施設の維持費の高騰により、慢性的な赤字に苦しむケースが増加。地方財政の逼迫も重なり、医療機関の閉鎖を余儀なくされる状況も生じていました。一方、民間医療機関が地域医療において果たす役割は大きくなっており、非営利性を担保した上で効率的に公益性の高い医療を提供できる組織が求められました。

そこで、経営の透明性を高めた医療法人に対し、地域の医療計画への参画を促し、公益性の高い医療を安定的に提供してもらうための施策として、社会医療法人制度が創設されました。2006年の医療法改正で制度化され、2007年4月1日に施行。ただし、認定は2008年4月以降に開始されました。

2024年4月1日現在、365法人が社会医療法人として認定されており、都道府県別では北海道が最多となっています。

社会医療法人の特徴

社会医療法人は、以下の様な特徴を持っています。

公益性の高い医療の提供: 救急医療、精神科救急医療、災害医療、新興感染症医療、周産期医療、へき地医療、小児救急医療などの提供が義務付けられています。
公的医療機関に準じた扱い: 自治体病院の民営化や指定管理者制度において、一般の医療法人よりも優遇されることがあります。
社会医療法人債の発行: 有価証券である社会医療法人債を発行し、資金調達が可能です。債券発行には財務諸表監査が義務付けられます。
収益事業の実施: 一般の医療法人よりも幅広い収益事業の運営が可能です（特別養護老人ホームを除く）。得られた収益は、本来の医療事業に充当されます。
遊休病床の優先利用: 自治体病院の遊休病床が優先的に割り当てられます。
国有財産の活用: 国有財産の売却や定期借地権の利用において、社会医療法人が「公益性が高い」法人と判断され、優遇措置を受ける場合があります。
税制上の優遇: 本来事業は非課税で、収益事業には公益法人と同じ税率が適用されます。収益事業から本来事業への支出は、一定額まで寄付金として損金算入が可能です。

社会医療法人の要件

社会医療法人として認定を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。

同族支配の制限: 役員や評議員の3分の1以上が親族関係者でないこと。
救急医療等確保事業の実施: 医療計画に記載された救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療のいずれかの事業を行う体制と実績を持つこと。
公的な運営: 理事の定数や運営、役員への報酬、利益供与、遊休財産、議決権、法令違反など、細部にわたって公的な運営に関する要件を満たす必要があります。
残余財産の公共性: 法人解散時の残余財産を国、地方公共団体、または他の社会医療法人に帰属させること。

社会医療法人の収益業務

社会医療法人は、本来業務である病院等の運営に支障のない範囲で、定款に定めることで、以下の様な収益業務を行うことが可能です。これらの収益は、社会医療法人が開設する病院等の経営に充当することを目的とします。

農業、林業、漁業
製造業
情報通信業
運輸業、郵便業
卸売業、小売業
不動産業、物品賃貸業（建物売買業、土地売買業を除く）
学術研究、専門・技術サービス業
宿泊業、飲食サービス業
生活関連サービス業、娯楽業
教育、学習支援業
医療、福祉（病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院に係るものを除く）
複合サービス事業
サービス業

社会医療法人債

社会医療法人は、救急医療等確保事業の実施に資するため、社会医療法人債を発行することができます。債券の発行は都道府県知事の許可は不要ですが、医療法で準用する会社法の規定などに基づいて実施しなければなりません。社会医療法人債は有価証券に該当し、発行にはメリットとデメリットがあります。

メリット

低コストで多額の資金調達が可能
長期安定的な資金調達が可能
無担保、無保証での資金調達が可能
固定金利での発行による収支予想の容易化
銀行などの資金供給先の状況に左右されない安定的な資金確保

デメリット

経営体制の拡充や人的投資が必要
広範囲にわたる関係者との折衝や調整が必要
経営に関する詳細情報の開示が必要となり、業界内競争にマイナスの影響を及ぼす可能性
* 資金調達完了までに長期間を要し、機動性に欠ける

社会医療法人の位置付け

社会医療法人は、公的医療機関に代わって救急医療などを担っていますが、法的には公的医療機関ではありません。一部の社会医療法人（JA厚生連が母体の医療法人）のみ、公的医療機関として扱われる不均等な状況があります。

特別医療法人

社会医療法人の前身とも言えるのが特別医療法人です。1997年に創設され、医療外収益を医療経営に充当することを可能とした制度ですが、税制上の優遇措置がないなどの理由から普及が進まず、社会医療法人の制度化に伴い2012年に廃止されました。

まとめ

社会医療法人は、地域医療を支える重要な役割を担っています。公益性の高い医療の提供、税制上の優遇措置、収益事業の実施など、様々な特徴を持つ一方で、設立には厳しい要件を満たす必要があります。社会医療法人債という資金調達手段があるものの、利用は限定的です。この制度を理解することは、今後の日本の医療体制を考える上で重要と言えるでしょう。

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