社会的手抜き

社会的手抜き（Social Loafing）とは

社会心理学において社会的手抜きとは、個人が集団で作業する際に、一人で作業する時と比べて目標達成のために努力を惜しむ現象を指します。リンゲルマン効果、フリーライダー（ただ乗り）現象、社会的怠惰とも呼ばれます。

この現象は、集団がメンバー個人の総合力よりも生産性が低くなる主な理由の一つとされています。

社会的手抜きの歴史

社会的手抜きの研究は、マックス・リンゲルマンによる綱引き実験から始まりました。リンゲルマンは、集団のメンバーは1人で綱を引く時と比べて、努力を惜しむ傾向があることを発見しました。

1974年、アラン・インガムらはリンゲルマンの実験を再現し、動機喪失がパフォーマンス低下の原因であることを示唆しました。

ビブ・ラタネらは、拍手や叫び声の実験を通して、グループのパフォーマンス低下は調整の悪化ではなく、個人の努力の減少に起因することを示しました。

1993年のメタアナリシスにおいて、カラウとウィリアムズは集合的努力モデル（CEM）を提案し、個人の努力と価値ある成果との間に知覚された偶発性がある場合に、社会的手抜きが発生しやすいと結論付けました。

社会的手抜きの原因

社会的手抜きは、主に以下の要因によって引き起こされると考えられています。

責任の分散: グループの人数が増えるほど、個人の責任感が薄れ、努力を惜しむ傾向があります。
動機: 目標達成への期待や目標の価値が低い場合、動機が低下し、社会的手抜きが発生しやすくなります。
努力の代替可能性: 自分の努力がグループ全体の成果に影響を与えないと感じる場合、努力を惜しむ傾向があります。
手下効果/嫌悪感: 他のメンバーに仕事を任せられると感じる場合、不公平感を抱き、努力を惜しむことがあります。
帰属と公平性: 他のメンバーが手を抜いていると感じる場合、自分の努力を合わせようとします。
最大ではない目標設定: グループの目標が低く設定されている場合、十分な努力をしないことがあります。
不参加: プロジェクトへの個人的な関与が低い場合、社会的手抜きが発生しやすくなります。
傍観者行動: 困っている人がいても、他の人が助けるだろうと考え、行動しないことがあります。
期待: 他のメンバーが手を抜くと思っている場合、自分も努力を惜しむことがあります。
内集団と外集団: グループ内で貢献する人としない人が分かれ、対立が生じることがあります。
複雑な目標: 目標が複雑で達成困難な場合、努力をしないことがあります。
達成可能な目標: 目標が簡単すぎる場合、やる気をなくすことがあります。
劣等感: スキルの低い人が優秀なグループに配置された場合、劣等感から努力をしないことがあります。

社会的手抜きの影響

社会的手抜きは、グループや個人に悪影響を及ぼす可能性があります。

グループ全体の動機低下
個人の感情や満足度の低下
パフォーマンスの低下
チームワークの悪化

社会的手抜きの事例

1994年ブラックホーク撃墜事件: AWACSチームの責任分散による社会的手抜きが指摘されています。
職場: 建設現場やレストランなどで、一部の従業員が手を抜く例が見られます。

社会的手抜きの軽減策

社会的手抜きを減らすためには、以下の戦略が有効です。

動機付け戦略: コラボレーション、コンテンツ、選択の自由を提供し、個人の動機を高めます。
識別可能性を高める: グループ内でお互いの貢献を明確にし、評価します。
フリーライドを最小限に抑える: 各メンバーの貢献が不可欠であることを認識させます。
関与を促進する: 難易度の高い課題を与え、グループ作業の楽しさを体験させます。
チームの結束力を強化する: グループへの帰属意識を高めます。
目標を設定する: 明確で挑戦的な目標を設定します。
個人評価: チーム全体の成果だけでなく、個人の貢献も評価します。
個人的なタスク、役割、責任: 各メンバーに特定のタスクや責任を割り当てます。
基準とルール: 明確な基準とルールを設定し、全員が遵守するようにします。
チームへの忠誠心: チームへの忠誠心を育み、一体感を高めます。
小さなグループサイズ: グループの規模を小さく保ちます。
ピア評価: グループメンバー同士で評価し合う機会を設けます。
オンラインコミュニティへの貢献を奨励する: 役割と責任を明確にし、高いレベルの参加を義務付けます。
* プロジェクトの範囲を制限する: 大きなプロジェクトを分割し、個人の負担を軽減します。

社会的手抜きは、様々な要因によって引き起こされる複雑な現象ですが、適切な対策を講じることで、その影響を最小限に抑え、グループ全体の生産性を高めることができます。

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