福井覚治

日本初のプロゴルファー 福井覚治

福井 覚治（ふくい かくじ、1891年5月11日 - 1930年4月13日）は、日本のゴルフ史上において、初めて「プロゴルファー」という職業を確立した人物です。わずか38歳という若さでこの世を去りましたが、その短い生涯の中で、日本のゴルフの普及と発展、そして後進の育成に計り知れない功績を残しました。彼の存在は、現在の日本ゴルフ界の礎を築いたものとして、日本プロゴルフ殿堂でも顕彰されています。

ゴルフとの出会いと生い立ち

覚治は1891年、兵庫県武庫郡（現在の神戸市東灘区付近）で、農業を営む福井藤太郎の次男として生まれました。生家は、日本で二番目のゴルフ場として1904年に開設された「横屋ゴルフ・アソシエーション」（横屋コース）にほど近い場所にありました。横屋コースは、神戸ゴルフ倶楽部の会員であったウィリアム・ジョン・ロビンソン氏が中心となり、外国人居留民名義の借地に造られたものです。コースの建設工事を父・藤太郎が請け負った際、当時12歳だった覚治もその手伝いをする中で、初めてゴルフというスポーツに触れることになります。

福井家は、開設された横屋コースの運営管理を委託され、住居の一部はクラブハウスとしても利用されました。食事の提供やキャディーの手配なども行い、ゴルフ場の活動は覚治の日常の一部となっていきます。覚治自身もキャディーとして働き始め、特にコース開設者であるロビンソン氏の専属キャディーを務めるうちに、ゴルフの技術と知識を習得していきました。

黎明期のキャディーとプロへの道

当時の日本のゴルフ場では、近隣の村の少年たちがキャディーとして働くのが一般的でした。彼らは単にバッグを運ぶだけでなく、経験を積むにつれて年少者の指導、クラブの修理、さらにはメンバーへのレッスンや接待といった多様な役割を担うようになります。中には「キャディーマスター」としてコース運営の中心を担う者も現れました。

ゴルフが主に外国人や一部の日本人富裕層によって行われていた時代、アマチュアであるクラブ会員たちは、熱心な少年キャディーたちに道具を与え、ゴルフを教えることで競技者として育成しました。神戸ゴルフ倶楽部などでは、キャディーによる競技会も開催され、ここから覚治に続く初期のプロゴルファーたちが生まれています。同郷で覚治の幼なじみでもある越道政吉や、後に日本を代表するプロとなる宮本留吉、中上数一なども、この時代のキャディー出身者です。

ゴルフを職業と定めて

横屋ゴルフ・アソシエーションに日本人初の会員として安部成嘉氏（横浜正金銀行神戸支店長）が入会したのは1912年頃のことです。初めて日本人ゴルファーを見た覚治は、安部氏との対戦を熱望し、これに勝利しました。この出来事をきっかけに、安部氏は覚治にゴルフを教えてほしいと依頼し、覚治のレッスン活動が始まります。

1914年、土地所有者の変更により横屋コースは閉鎖され、代わって鳴尾村（現在の西宮市）に鳴尾ゴルフ・アソシエーションが設立されました。ロビンソン氏や安部氏がコース設計に携わる中、覚治もコース選定や設計に関する意見を求められ、現場監督的な役割も担ったと伝えられています。鳴尾に覚治を招いたロビンソン氏は、ゴルフ指導やクラブ修理を職業とすることを勧め、覚治はここにゴルフに生涯を捧げる決意を固めます。鳴尾ゴルフ倶楽部には日本人会員も増え、職業としてゴルフで生計を立てる目処が立ちました。

鳴尾でも再び土地の問題が発生し閉鎖された後、覚治は生家近くの横屋コース跡地を活用し、事実上自身の練習場として維持しました。また、現在の神戸市東灘区青木には、ゴルフの室内練習場とゴルフクラブの修理・製作を行う工房を設け、越道政吉を助手（あるいは弟子）として迎えています。

日本初のプロゴルファー誕生

鳴尾コースの閉鎖後、ゴルファーたちは新たなゴルフ場の設立に奔走しました。1920年9月、南郷三郎氏らによって明石市垂水に舞子カンツリー倶楽部（現在の垂水ゴルフ倶楽部の前身）が設立されます。福井覚治はこの舞子コースの設計に携わるとともに、プロゴルファー兼キャディーマスターとして迎えられました。この時をもって、福井覚治は「日本で最初のプロゴルファー」となったとされています。

1920年代に入ると、各地でゴルフ場が開設されるに伴い、プロゴルファーとして認められる人材も増えていきます。1922年には横屋コースが甲南ゴルフ倶楽部として再建され、越道政吉がプロとして迎えられました。当時のプロゴルファーは、単にプレーヤーとして優れているだけでなく、コース運営に必要な人材、特に技術指導やクラブ修理、運営サポートができる人物が認定される性格が強くありました。覚治もまた、全国を訪れてアマチュアゴルファーにレッスンを行い、その技術と知識を広めました。

覚治のもとには、多くの少年キャディーやプロゴルファーを目指す若者たちが集まりました。特に、後に日本ゴルフ界を牽引する宮本留吉は、覚治のもとでクラブ修理やキャディー管理を学ぶために訪れました。半年ほどの期間でしたが、二人の間には深い師弟関係と友情が生まれ、長く続きました。1926年の時点では、日本には福井、越道、中上、宮本、村上（関西）、安田、関（関東）の7名のプロが存在しました。

先駆者としての活動と早世

覚治の功績は、プロゴルファーとしての活動だけにとどまりません。1922年には、日本初の本格的なゴルフ雑誌とされる『GOLFDOM（ゴルフドム）』を創刊し、情報発信にも力を入れました（発行人としては1923年まで）。また、舞子コースのほか、宝塚ゴルフ倶楽部（1926年）、別府ゴルフ倶楽部（1930年）など、いくつかのゴルフコースの設計にも関与しています。

1926年7月、茨木カンツリー倶楽部で開催された第1回日本プロゴルフ選手権大会（当時の名称は「全国プロフェッショナル・ゴルファーズ優勝大会」）では、覚治が記念すべき大会の第一打を放ちました。競技は宮本留吉が初代優勝者となりましたが、覚治は「弟子のようなもの」である宮本の優勝を心から喜び、祝勝会は覚治の自宅で開かれたといいます。同年11月の第1回関西オープンでは、覚治が2位に8打差をつけて圧勝し、その実力を見せつけました。

その後は競技会への出場は少なくなり、ゴルフの普及とレッスンに専念しました。しかし、1930年4月13日、肺を患い、38歳という若さで急逝しました。

覚治の遺志は、息子たちの福井康雄、福井正一、そして甥の村木章といった親族にも受け継がれ、彼らもプロゴルファーとして活躍しました。特に康雄氏はレッスンの第一人者として知られ、多くのゴルファーを育てました。覚治が日本のゴルフ界に残した足跡は深く、黎明期における彼の先駆的な役割は、今なお高く評価されています。

もう一度検索