禿島田

禿島田（かむろしまだ）

江戸時代後期、具体的には文化・文政期と呼ばれる時代から、遊郭において太夫見習いとして働く少女「禿」に結われていた特別な髪型があります。それは「禿島田（かむろしまだ）」と呼ばれ、当時の女性に広く結われていた高島田という結髪の派生形でした。遊郭の最高位である花魁たちの髪型が次第に豪華で複雑になっていくにつれて、それに仕える禿たちの髪型も変化を遂げました。それまで一般的なおかっぱ頭だった禿たちも、時代の流行を取り入れた結髪をするようになったのです。

この髪型は遊郭という限られた世界でのみ結われる特殊なものであったため、一般の女性たちの間に広まることはありませんでした。しかし、一度誕生してからは文化年間から始まり、明治時代に遊郭制度が解体されるまで、長く受け継がれていきました。

禿島田を結うのは、十代を迎えたばかりの若い少女たちです。そのため、一般の成人が結う高島田に比べて髷（まげ）の部分がやや細めに作られるという違いはありますが、基本的な結いの形自体は高島田と共通しています。この髪型の最も特徴的な点は、その華やかで多様な髪飾りの用い方にあります。

頭のてっぺんが埋もれてしまうほど大きな花簪を挿した髷の根元には、紅色の和紙がリボンのように飾られます。さらに、髷の中には、鹿の子絞りを施した紅色や桃色の縮緬（ちりめん）製の小さな座布団が、色違いで三枚も詰め込まれています。そして、太い銀色の水引（みずひき）が二本並べられ、飾り結びで髷に結び付けられるなど、非常に手の込んだ、豪華絢爛な装飾が施されました。これらの髪飾りは、まだ幼さを残す禿たちの存在を一層引き立てる役割を果たしていたのでしょう。

当時の絵画などでこの髪型を見分ける際、髷の正確な形を判別するのが難しい場合もありますが、頭いっぱいに溢れんばかりの花簪を挿し、振袖の袖口にリボンのような飾りを付けている少女が描かれていれば、それは禿島田を結った禿であると考えて間違いないでしょう。この特徴的な髪飾りは、禿島田を象徴する視覚的なサインでした。

現代において、禿島田はかつてのように日常的に見られる髪型ではありません。しかし、「羽根の禿」などの演目で知られる歌舞伎や歌舞伎舞踊の世界、あるいは地域のお祭りで行われるおいらん道中などで、当時の姿を再現した禿島田を目にすることができます。遊郭という特殊な環境の中で生まれ、独自の発展を遂げたこの華やかな髪型は、今なお江戸時代の文化の一端を伝える存在として、私たちにその姿を見せてくれています。

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