秘境探検ファム&イーリー

『秘境探検 ファム＆イーリー RUIN・EXPLORER』とは

漫画家、田中久仁彦によるファンタジー作品。『秘境探検 ファム＆イーリー RUIN・EXPLORER』（ひきょうたんけん ファムあんどイーリー）は、かつてホビージャパンから発行されていた月刊『RPGマガジン』において、1992年から連載が始まりました。

物語の舞台は、高度な魔法文明が崩壊してから数世紀が経過した異世界。この世界で、古代文明が遺した遺跡を探索する冒険者、「遺跡探索者（RUIN・EXPLORER）」として活動する二人の少女、ファムとイーリーを主人公としたファンタジーコミックです。

連載から再始動、そしてメディア展開

本作は複数のエピソードで構成される連作形式で発表されましたが、作者の制作ペースからくる休載やページ数の削減、さらには下書き状態での掲載といった状況が続き、残念ながら未完のまま雑誌連載は終了となりました。しかし、初期のエピソードを中心に「万能なる力」を巡る物語として再構成された上で、1995年にはOVAとしてアニメ化されるという展開を見せます。

長い沈黙の後、連載終了から約10年を経た2010年には、田中久仁彦氏個人の同人サークルが発行する同人誌上で新作が発表され、作品は再び動き出しました。さらに、2017年からはホビージャパンが運営するウェブコミック配信サイト『コミックファイア』内で、田中久仁彦氏の公式ネットマガジン「ONE VISIONS」が開設され、単行本第1巻に収録されたエピソードがウェブ連載として公開されています。2019年には、新規カバーイラストや描き下ろし新作エピソードを収録した新装版の発売が告知されましたが、2020年8月時点ではまだ刊行には至っていません。

ストーリーと世界観

遠い昔、この世界では極めて発達した魔法文明が栄えていました。しかし、その強大な力を巡る争いが勃発し、多くの文明が失われ、世界は荒廃します。時が流れ、人々が少しずつ復興を遂げる中で、滅びた文明の遺跡に眠る過去の遺産、すなわち魔法の力や莫大な富を手に入れようとする者たちが現れました。彼らは、遺跡に張り巡らされた危険な罠をかいくぐり、徘徊する恐ろしいモンスターを退けながら、命を懸けて目的の物を探し求めます。人々は、そんな彼らを畏敬と同時にどこか嘲りの念も込めて、「ルーイン・エクスプローラー」と呼ぶようになったのです。

本作では、いくつかの主要なエピソードが描かれています。

万能なる力編：どんな願いでも叶うという「万能なる力」を求めて旅を続けるファムとイーリー。旅商人から手に入れた地図を元に遺跡へ向かいますが、そこには想像を超える罠が待ち受け、さらにライバルのラーシャとミゲルも現れます。万能なる力とされる像を巡る争奪戦から、古の王が国を再興した力の秘密へと物語は展開します。
へべれけの宝編：イーリーが路銀を全て博打で使い果たしたことから始まるエピソード。酒場で働くことになったイーリーはラーシャとミゲルと再会し、店の存続を賭けた飲み比べに巻き込まれます。勝負の決着をつけるため、どんな酒豪をも酔わせる「酔える酒豪の宝」を求めてファムとラーシャが遺跡に挑みますが、遺跡の試練もまた飲み比べでした。
しっぽたちの午後編：イーリーが一人で遺跡探索に出かけた留守、ファムが宿屋で過ごす日常を描いた短編です。のんびり過ごすファムのしっぽに猫たちがじゃれつき、思わぬ騒動が巻き起こります。このエピソードは、一切のセリフがないサイレント形式で描かれているのが特徴です。
ルグドゥル編：イーリーとの喧嘩に嫌気が差したファムが、出会ったラエルに惹かれて共に旅立つことから始まる、複数のパートからなる長編エピソードです。財宝が隠されているというサレイエムの地下都市遺跡を目指すイーリーは、そこでラーシャ、ミゲル、ファム、ラエル、そして遺跡に隠された召霊石を狙う邪神官ルグドゥルらと鉢合わせます。ルグドゥル一味との対決の中で、ラエルの素性やルグドゥルの恐るべき計画、そしてイーリー自身の過去に繋がる手がかりが明らかになり、ラエルに協力してルグドゥル討伐へと向かいます。

主要な登場人物

ファム：褐色の肌と長い耳、しっぽを持つウィガン族の少女です。閉鎖的な故郷を嫌い、イーリーと共に遺跡探索者になりました。ウィガン族の特異な能力により、精霊や動物と心を通わせることができます。性格はのんびり屋で純真、非常に騙されやすい一面を持ちます。破壊的な力を持つ攻撃魔法を苦手としています。驚くほど物覚えが悪く、習った呪文をすぐに忘れたり、罠を解除しようとしては逆に作動させてしまったりと、遺跡探索においてはイーリーと互いに足を引っ張り合うことも。一方で、ラエルを巡るラーシャとのライバル関係においては、相手の料理に妨害工作を仕掛けるといった執念深さを見せることもあり、この点は復讐を誓うイーリーと共通する部分です。
イーリー：長髪で頬に傷のある魔法剣士の少女。何よりもいたずらが大好きという生粋のトラブルメーカーです。度重なるいたずらに愛想を尽かした両親に勘当され、養子に出された先の魔術師にもいたずらが原因で魔法を使うとネズミになってしまう呪いをかけられ、破門されて放浪の身となりました。自身の自業自得を反省するどころか、両親や魔術師に悪感情を抱く厚顔無恥な性格。ネズミの呪いを解く方法を探して遺跡探索者となりましたが、見つかるのはネズミから人間へ一時的に戻るための薬ばかりで、魔法を使うことは稀です。基本的な魔法の知識は持ち合わせており、ファムに教えることもありますが、彼女の物覚えの悪さからあまり成果は上がりません。剣術は魔法のハンデを補うために始めましたが、まだ未熟です。原作ではネズミ化するとファム以外とは会話できませんが、アニメ版ではネズミの姿でも話せます。また、ファムの貯金を平気で使い込むなど、金銭感覚には問題があります。短気でがさつな振る舞いから男性と間違えられることもありますが、実際は豊満な体つきで、身長はファムより少し高いものの小柄です。原作では、呪いが解けたら自分に呪いをかけた養父の魔術師への復讐を企んでいます。
ラーシャ：高飛車な態度が目立つ女魔術師。ファムとイーリーと同じく遺跡探索者であり、欲しいものを手に入れるためには手段を選ばない強引さを持っていますが、詰めが甘く失敗することも少なくありません。ネズミが大の苦手です。ファム＆イーリーとは遺跡で度々遭遇し、ライバル関係でありながら腐れ縁のような関係が続いています。意外にも料理の腕は確かで、イーリーに魔法の指導を頼まれた際には、物覚えの悪いファムに文句を言いながらも根気強く教えるなど、面倒見の良い一面も持ち合わせています。
ミゲル：ラーシャの相棒を務める凄腕の剣士。魔法は使えませんが、剣で斬れる相手には決して負けないという自信に満ちています。その能力は確かで、ラーシャでも手を焼くようなドラゴンを一撃で両断するほど。動きやすさを重視するためか、ほとんど防具を身につけていません。ラーシャに振り回される苦労人ですが、彼女との付き合いは長く、義理堅い性格からイーリーの剣術の稽古役も務める律儀さを見せます。かなりの酒豪です。
ラエル：滅ぼされたレバルト王国の王子であり、リーアン王家の最後の生き残りです。故国と囚われた婚約者メリアを取り戻す方法を探し、各地を旅しています。魔術の才能はありませんが、剣術に優れ、精霊王サーガスが宿るとされる剣を携えています。目的のためには王位継承の指輪さえ手放す潔さを持っています。美形かつ人当たりが良いため、ファムとラーシャから好意を寄せられますが、本人はメリア一筋です。
ルグドゥル：ラエルの国を滅ぼした邪教の教主であり、絶大な魔力を持つ存在です。元々は穏健な宗教家でしたが、国王（ラエルの父）によって邪教と断定され、自身の妻子を惨殺されたことから復讐心に囚われ、力を求めるようになりました。彼の復讐は、人々が理由も分からずに死んでいく恐怖を味わわせるという凄惨なものでした。アニメ版では、貧しい民を救うために禁断の魔法の封印を解き、力に支配されて邪悪になったという設定に変更されています。
メリア：ラエルの婚約者である美しい女性。ルグドゥルに囚われ、魔法によって下半身が蛇の姿に変えられてしまいます。物語の結末で元の姿に戻り、ラエルと共に国の再建を目指します。アニメ版では国が滅んだ際にルグドゥルに殺害されていますが、ラエルの記憶から精霊がその姿を借りて彼に力を与えます。
ガルフ：ラーシャに買収され、ファムとイーリーに偽の地図を売りつけた悪徳行商人。原作では物語に少し登場する脇役でしたが、アニメ版では声優の大塚周夫氏が演じたこともあり、彼の代表作である『チキチキマシン猛レース』のブラック魔王を彷彿とさせるキャラクターとして、飼い犬のギルと共にメインキャラクターの一人となりました。

書籍情報

本作の単行本としては、『秘境探検ファム＆イーリー 1巻』（ISBN 4894250365）が1995年10月にホビージャパンコミックスより発売されました。しかし、連載が未完に終わったため、2巻以降は刊行されておらず、雑誌掲載分のエピソード全てが収録されているわけではありません。また、初版には発売遅延に関するお詫びの文章が掲載されていました。

別冊として『秘境探検ファム＆イーリー スペシャル・プラス』が1996年8月に『RPGマガジン』8月号増刊として発売されています。こちらにはOVA版の全話ダイジェストや設定資料に加え、「万能なる力編」と、単行本未収録分を含む「ルグドゥル編」の全話が収録されています。「へべれけの宝編」と「しっぽたちの午後編」は未収録です。

OVAシリーズ

1995年から1996年にかけて、全4巻構成（各巻に1話収録）のオリジナルビデオアニメ（OVA）がVHSとLDでリリースされました。ファム役に椎名へきる、イーリー役に根谷美智子、ラーシャ役に松本梨香、ミゲル役に山寺宏一といった人気声優陣を起用し、アニメーション制作は亜細亜堂が手掛けるなど、豪華な制作体制が組まれました。また、これに合わせてドラマCDや各キャラクターのイメージソングなども制作・発売されています。

2003年5月23日には、全4話を一枚のディスクにまとめて収録したDVD『秘境探検ファム&イーリー complete edition』が発売されました。DVD化にあたり、ニュープリント・ニューマスター処理が施されています。特典として原作者の田中久仁彦氏と監督・脚本のもりたけし氏の対談が収録された解説書や、ノンスーパーOP&ED、TVCM集、DVD発売告知PVといった映像特典が含まれていましたが、VHS第1巻に収録されていた特典映像の一部は未収録となりました。

OVA版のストーリーは、原作の「ルグドゥル編」をベースに「万能なる力編」のエピソードを組み込み、「万能なる力」を巡る一つの壮大な物語として再構成されています。原作では最初の冒険で手に入れた「王家の証」とされる像が「万能なる力」へ至る鍵の一つとされ、原作でラエルの初期からの愛剣であった「精霊サーガスの剣」がサレイエムの地下都市遺跡に隠された財宝として登場するといった変更が見られます。最終的に三つの秘宝を集め「万能なる力」を手に入れようとするルグドゥルとの決着をつけるため、ラエルの故郷であるレバルト王国へと向かう展開になっています。

TRPG化

1993年には、『RPGマガジン』の別冊として刊行された『秘境探検ファム&イーリー特別編』に、山北篤氏によってデザインされたオリジナルのテーブルトークRPG（TRPG）ルールが収録されました。キャラクターは体力、運動、知性、感性、カリスマの5つの能力値とヒットポイント、そして技能によって表現されます。初期の技能は、戦士、魔法使い、盗賊、何でも屋という4つのパターンから選択する擬似的なクラス制を採用。行為判定は、技能レベルと同じ数の6面ダイスを振り、能力値から算出される「判定値」以下の目が出れば成功となる下方判定方式でした。成功レベルは判定値以下の出目の数で示されます。魔法の呪文は技能として個別に習得する必要があり、強力な呪文ほど詠唱に時間がかかるというルールがありました。

このように、『秘境探検 ファム＆イーリー』は漫画としての発表から始まり、アニメ化、関連メディア展開、さらにはTRPG化と、様々な形でファンを魅了した作品です。未完という形にはなりましたが、その魅力的な世界観とキャラクターは今なお語り継がれています。

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