称名寺貝塚

称名寺貝塚（しょうみょうじかいづか）

神奈川県横浜市金沢区に位置する称名寺貝塚は、縄文時代後期を中心とした重要な貝塚・集落遺跡です。特に、多量のイルカの骨が出土したことや、縄文時代後期初頭の土器型式である「称名寺式土器」の標式遺跡として知られています。

概要

国の史跡である称名寺の山門付近から西側にかけて、複数の地点貝塚（A～J貝塚）が分布しています。そのうちE貝塚は薬王寺境内にあり、「薬王寺貝塚」と呼ばれていたこともあります。これらの貝塚は、縄文時代の人々の生活様式や食料資源を知る上で貴重な情報源となっています。

立地

遺跡は、東京湾に面した平潟湾の北東、標高約10メートルの微高地上に位置しています。この微高地は、かつては海岸砂丘であり、縄文人が生活していたと考えられています。現在、金沢区役所がある平野部は、近世に新田開発によって埋め立てられた場所であり、当時は称名寺付近から平潟湾へ突き出た地形でした。かつては沖合いの陸繋島である野島へと砂丘が続いており、野島の山頂には縄文時代早期の野島貝塚が存在します。

調査と研究

1925年（大正14年）に考古学者の赤星直忠によって貝塚の存在が報告されて以降、石野瑛、吉田格、和島誠一、岡本勇らによって断続的な調査が行われました。吉田格の研究により、出土した縄文土器は加曾利E式土器と堀之内式土器の中間に位置づけられ、「称名寺式土器」として分類されるようになりました。この土器型式は、縄文時代後期の編年を考える上で重要な指標となっています。

出土遺物

称名寺山門西側の範囲を中心に、複数の貝層が分布しており、竪穴建物や土坑墓などの集落跡も確認されています。出土遺物としては、縄文土器、石器、骨角器のほか、マテガイやハイガイなどの貝類、タイやサメなどの魚類の骨が見つかっています。特筆すべきは、イノシシやシカなどの陸上獣類に加えて、イルカの骨が多量に出土している点です。このことから、縄文人が海に面した砂丘を拠点に、漁労を中心とした生活を営んでいたことが推察されます。

称名寺貝塚出土資料は、以下の機関で保管されています。

神奈川県立歴史博物館
立正大学博物館
横須賀市自然・人文博物館
神奈川県立金沢文庫
東京都江戸東京たてもの園
横浜市教育委員会（管理：横浜市ふるさと歴史財団埋蔵文化財センター）
慶應義塾大学文学部民族学考古学研究室

遺跡の現状

称名寺貝塚は、関東地方の縄文時代研究史上重要な遺跡ですが、文化財保護制度上の指定は受けていません。そのため、宅地化が進行し、解説板や碑も設置されておらず、遺跡の全容を把握することが難しくなっています。しかし、現在でも部分的な調査が継続されており、2016年には横浜市歴史博物館が称名寺貝塚をテーマにした展覧会を開催しました。遺跡の保存と活用が今後の課題となっています。

参考文献

赤星直忠1988「称名寺（周辺を含む）遺跡と私」『史跡称名寺境内 庭園苑池保存整備報告書（昭和53〜62年度）』横浜市教育委員会（文化財課）
横浜市教育委員会 2004『横浜市文化財地図』NAID BB23262051
横浜市歴史博物館 2016 企画展示図録『称名寺貝塚‐土器とイルカと縄文人‐』公益財団法人横浜市ふるさと歴史財団NAID BB21854592

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