穂坂衛

穂坂衛とは

穂坂衛（ほさか まもる、1920年8月25日 - 2016年10月26日）は、日本の著名な技師であり学者です。彼は東京大学の名誉教授として知られ、紫綬褒章や日本学士院賞など、多くの栄誉を受けています。穂坂氏は、大野豊らと共に、世界初のオンライン座席予約システムであるMARS-1を開発し、日本のコンピューターグラフィックスやCAD（コンピュータ支援設計）の分野に大きな足跡を残しています。

略歴

穂坂は神奈川県に生まれ、1942年に東京帝国大学の工学部航空学科を卒業しました。その後、大日本帝国海軍の技術士官として、艦上爆撃機の構造強度計算や特攻機桜花の設計に関わりました。彼は「設計者が試験飛行に同乗する必要があり、ミスが許されない仕事を学んだ」と述べています。

戦後は日本国有鉄道技術研究所で勤務し、その後東京大学で教授として教鞭を執りました。1981年からは東京電機大学でも教授として活躍し、1995年には豊田工業大学の客員教授にも就任しました。

国鉄の座席予約システム

戦後の国鉄で穂坂は、フルブライト・プログラムに参加してMITに留学し、ノーバート・ウィーナーとの出会いを通じてコンピューターの工学への応用に目覚めました。帰国後、彼は若手技術者を集めてコンピューター技術の勉強会を設立しました。この勉強会が後のMARS-1開発の基盤となります。

ある懇親旅行中に座席予約ができずに不便を感じた穂坂は、オンラインでの座席予約システムを構想。従来の電話と台帳による管理法では人為的ミスが多く、効率が悪いため、コンピューターを用いたシステム化を目指しました。穂坂は予算を獲得し、大野や日立製作所と協力し、1960年に試作機MARS-1を実用化。このシステムは東京と大阪間のビジネス特急の座席予約を円滑に行うことができ、99.95%の稼働率を記録しました。

その成功を受けて、国鉄はさらなるシステム開発を進め、穂坂はMARS-101を開発し、全国規模のオンラインシステムに貢献しました。コンピューターが普及していなかった当時、穂坂の業務効率化の発想と実現は、日本におけるコンピューターの進展に大きな影響を与えました。彼は日本人として初めてIEEE Computer Pioneer Awardを受賞しています。

東京証券取引所での取り組み

東京大学に移った穂坂は、東京証券取引所の近代化に貢献しました。取引価格形成の明確化を目的としたコンピューター化支援を行い、取引所と関連会社との間で要件定義や技術監修を行いました。

曲面形状のコンピューターモデル化

1960年代後半、穂坂は図形処理にさらに専念し、1975年にはベジェ曲線の単純化や接続条件の明確化に成功しました。この成果は自動車デザインの情報モデル構築に応用され、トヨタ自動車がその技術を取り入れて世界的な自動車製造の革新を促進しました。これらの業績は、日本の機械製造業の開発期間の短縮や品質向上に大きく寄与し、1996年の日本学士院賞受賞の際にも高く評価されました。

主な受賞歴と著書

穂坂の多くの受賞歴には、科学技術庁長官賞（1961年）、紫綬褒章（1971年）、勲三等旭日中綬章（1995年）、日本学士院賞（1996年）、CG Japan Award（2004年）、IEEE Computer Pioneer Award（2006年）などがあります。また、主要な著書に『実時間システム概論』（1970年）、『コンピュータ・グラフィックス』（1974年）、『統合化CAD/CAMシステム』（1994年）などがあり、実践的な技術と理論の発展に寄与してきました。彼の業績は多くの分野において今もなお影響を与え続けています。

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